アスキー総合研究所 >  所長コラム > 超低価格ノートと「昼間のパパ」

【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.3

超低価格ノートと「昼間のパパ」

2008年11月19日 00時00分

 その昔、「はたらくおじさん」というNHK教育の番組があった。忌野清志郎の歌で「昼間のパパは~」というのもあった(『パパの歌』)。日本のお父さんたちは、それぞれの職場で、コツコツとまじめに、ニコニコと楽しそうに働いていた。

 やがて、世界のモノ作りの一線にたどりつくと、「ホンダ・モンキー」やら「カップ麺」やら「焼けると飛び出すトースター」(あれはタニタが元祖なんだそうですね)やら、ノリのいい遊び心のある製品を生み出していった。日本人が創造主の仲間入りをした。

 1970年代には、日本は米国からマイクロチップを買いまくった。まだ日本製のチップが、十分には出てきていなかった時代である。あまりにチップを買うのを見て「日本人はチップを食べているのか?」と、ある米国の半導体メーカーの偉い人が言ったそうだ。日本人にとって、マイクロエレクトロニクスは、楽しくて仕方がなかった。私は大好きな時代なのだが、'80年前後には、いろんなものに「マイコン」が入っていった。

 '70年代に世界の一線に出たときに、日本のお父さんがやってみせた遊びのあるモノ作りこそ、クール・ジャパンのファースト・インパクトだし、エレクトロニクスを手に入れた'80年代の日本こそ、クール・ジャパンの通奏低音だと思う。

ロシアの山積みセール
EeePCが売れているのは日本とロシアという話は、ある調査会社の人からも聞いた。写真は、今年5月のモスクワの大手量販店で山積みセール中のEeePC。「новинка」は新製品の意味。

 この数カ月で日本のパソコン市場に劇的な変化が生じているというお話は、前回も少し触れた。台湾メーカーが投入してきた超低価格ノートパソコンが売れていて、日本メーカーも東芝、NECが参入した。

 いままで十数万円~30万円だったノートパソコンの中心価格帯が、5~7万円へと急激に下降している。しかし、この現象はノートパソコンだけの問題ではなく、日本のモノ作りにとって重要な意味を持つのではないかと思うのだ。

 韓国や台湾のブランドが、数万円以上する電気製品で日本市場に入り込むのには、高いハードルがある。無国籍的なノンブランドに近い白モノ家電なら、大手スーパーやドンキホーテのようなところで売られている。また、自転車や楽器など、目立ちにくいところでは入ってきているともいわれるが、高品位な家電や情報機器ではそうはいかない。宗教意識が高くはない日本人にとって、家庭電化製品こそが「日本人の心」なのだとでもいうのだろうか。

 その結果が、昨今問いざたされている「ガラパゴス化」である。日本メーカーが、国内市場でしか戦おうとしない。とくにケータイは、世界標準とは「種」の異なる製品へと進化してしまい、国際市場で戦えなくなっている。日本市場が世界から相手にされなくなりつつあり、国内では狭い市場で熾烈な競争をやっている。ガラパゴス(正しくはコロン諸島ですね)の生態系は、南アメリカ大陸から1000キロという特殊環境から生まれたものだが、日本は自らその道を選んだ。

 ところが、前回紹介したASUSTeKの「EeePC S101」という製品は、まるで日本市場のために作ったような製品である(詳しくは前回)。世界で500万台も売る同社が、なぜ日本のような小さな市場を相手にする必要があるのだろう。

 実は、世界を席巻したEeePCだが、国別の販売台数では日本とロシアが1位、2位を争っているという説がある(公式には明らかにされていない)。しかし、日本で売れているといっても比率の話であって、台数では全世界で売れているうちの10分の1にも満たないだろう。それなのに、なぜ日本製のような製品を出してくるのか?

BBCもEeePCを取材
10月に台北で行われたEeePC S101の発表会には約300名のメディア関係者が集まった(約150名は海外から)。私が毎週見ているBBC Worldのパソコン番組「Click」の姿も(写真奥=いつも登場する2人のキャスターが来ていると思ったら2人で撮りあっている)。

 EeePC S101は、日本の業界のおおかたの予想が8万円台だったのに対して、それを大きく下回る6万円台という価格で発売された。原宿で行われた日本での発表会のあと、「円安になったら値上げするんじゃないですか?」と関係者に聞くと、「赤字になっても価格を守る」という。

 ノリのいい遊び心がある製品で、日本市場を取れるかどうかが彼らの課題なのだ。つまり、「クール・ジャパン」のコアな部分に抵触する製品というべきなのではないか?

 いまも「はたらくおじさん」や「昼間のパパ」が頑張っているのは、基本的には変わっていない(たぶん)。ノリのいい遊び心も、「ここだけはあるよね」とみんな認識している(慰め合い)。

 問題は、スケーラビリティなのである(世界を見ているかどうか)。しかも、グローバルに出ていくことが問題なのでばなく、グローバルに訴えうる「時代の基調となる製品」ができるかなのだ。少なくとも「EeePC」はそうである。

カテゴリートップへ

■このコラムについて

 アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

2012年01月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年09月
2011年08月
2011年07月
2011年06月
2011年04月
2011年02月
2010年11月
2010年10月
2010年09月
2010年08月