アスキー総合研究所 > 所長コラム > ネットと雑誌が干渉する理由
【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.4
2008年11月25日 15時56分
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「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」に参加してきた。世界の雑誌協会の集まりである国際雑誌連合(FIPP)の主催で、11月12日からの3日間、「紙とデジタルの融合」をテーマに開催。会場となったホテル・ニューオータニには、多数の海外参加者を含む528名が集まり、18の有益なセッションが行われた。
紙とデジタルの融合は、雑誌の世界ではここ数年ずっと言われてきたことである。デジタルのほうは「紙との融合」なんて言っていないのに、紙の側は融合という話をしている。要するに、「ネット時代に雑誌はどうやって生きていくのか」というわけだ。
こうした議論は、とかく事例が中心の内容になりがちである。「うちはこんな風にうまくやっている」、「こうやったら成功した」などで、そうした情報も貴重ではある。
しかし、個別の環境下でうまくいったとか、10年ががりで実現したという話が少なくない。そういったアイデアだけもらって、うまく応用できるのだろうか? スピーカーはきっと、「ネタをバラしても簡単にマネできないよ」という気持ちでしゃべっているに違いない。
それでも、やはり興味深いお話はいくつもあった。
2日目の「デジタルデバイスのコンテンツ戦略」は、元NTTドコモの夏野 剛氏の司会による、ケータイ(ドコモの原田由佳氏)、ゲーム機(ソニーの正田純二氏)、電子ブック端末(アマゾンの渡部一文氏)、雑誌(日経BPの渡辺敦美氏)のパネルディスカッション。
異なるフォーマットの関係者が並んで、それぞれ「紙は大丈夫ですよ」と発言するのだが、ケータイ小説やマンガの話になりがちである。途中、夏野氏が発言した「それでは、雑誌はどうなのですか?」という問いに対する答えはどうなのか? ネットの影響を最も受けているのが雑誌だが、雑誌の外側は個別のコンテンツしか見ていないのだ。
小説やマンガが、ネットが来ようがデジタルになろうが、かたちを変えながらもやっていけるのは明らかだ。物語や絵物語は、紙の印刷技術が誕生するはるか以前から存在したコンテンツ形式だからだ。そして、作者と編集担当という「シンプルな人の関係」だけで作られる。
それに対して、雑誌は、印刷技術を背景に17世紀にドイツで誕生したメディアである。ただし、初期の定期刊行物という意味での雑誌は学術的な内容であり、複数のコンテンツからなる雑誌が定着したのは18世紀になってからだ。雑誌の特徴は、さまざまな才能を持つ、さまざまな人たちが関わって成立していることである。
人のネットワークで成立しているのが雑誌だから、同じく人のネットワークでできているネットとぶつかるのは当たり前だろう。いうまでもなく、雑誌における人のネットワークとインターネットにおける人のネットワークは、だいぶ趣の異なるものではあるが。
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同じく2日目の「デジタル広告の未来を探る」という分科会は、動画やモバイル、ネットワーク広告の関係者によるパネル。電通の佐藤尚之氏(アスキー新書『明日の広告』著者)が司会で、D2Cの藤田明久氏、グラムメディアのRalf Hirt氏、ブライトコーブのAdam Berrey氏が登場した。ここでも、雑誌の展望については「私自身は雑誌は好きなのです」というような話になってしまう。
なんだか、新しい彼女(デジタル)のできた男(広告業界)が、いま付き合っている彼女(雑誌)に別れ話を持ち出し、いろいろと理屈をつけてうまい具合に切れようとしているような感じさえしてくる。
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もっとも、このセッションも「デジタル広告の未来」がテーマなので、出席者は雑誌のことなんか気にする必要はないのだが。それでは、雑誌の未来とかデジタルとの融合というのはどのように考えるべきなのか?
そもそも、新しいメディアが出てきたとき、それは旧メディアと融合してきたのだろうか? 1960~1970年頃にかけて、テレビが出てきたとき、旧メディアはどうなったか?
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| ※新聞社がテレビ局を作ったから、ある意味での融合はできたとも見られるか? |
まずは、雑誌というメディアが、何年後にどのような市場になるかをシミュレーションすべきである。出版社は、そこに向けたスケジュールを立てるのがたぶん正しいだろう。上記2つのセッションの人たちが言っているように、なくなるわけではないし、復活することもある。むしろ、事例がいくつも出てきたいまこそ、俯瞰したゼロからの議論が必要なのではないだろうか。
ところで、最終日の懇親会では、香港で最大のマンガ出版社である正文社出版公司のL社長と話ができた。
遠藤 今回の会議の感想は?
L氏 香港の事例を紹介しないのは間違っていますね。
遠藤 なぜですか?
L氏 香港は、いま雑誌は好調で広告も入っているからです。
遠藤 なんでうまくいっているんですか?
L氏 香港の雑誌は安い(100~200円台の感覚)からでしょう。
遠藤 1冊分のお値段で2冊ついて来たりしますよね(一書二冊と呼ばれる)。
L氏 それと、いつでも買えることでしょう(路上のあちこちに雑誌スタンドがある)。
遠藤 香港の雑誌は中身も凄いですよねぇ。『Milk』とか1段落以上の長さの本文がない。
L氏 見るだけですからねぇ(笑)。
遠藤 あと、香港ではフリーペーパーも流行っていますよね?
L氏 『am730』なんかは中身で勝負していますよ。米大統領選挙にしても、独自の視点がある。ネットにあるようなこととは違う話が書かれています。
彼とは10年来の友だちだが、「雑誌とネットは別に考えるよね」というスタンスのようだ。
アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。