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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.10
2009年01月16日 23時32分
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| ウォルマートのAV機器売り場。ソニーやパナソニック、キヤノンのカムコーダー、サンヨーのXactiなどに混じって、見慣れぬ製品が売られている(一番手前の製品)。シンプルで白くてハイテク機器には見えない「Flip Ultra」(Flip Videoの上位機種)である。昨年、『ニューヨーク・タイムズ』紙が「One of the most significant electronic product of the year」と書いた製品だ。 |
1月8日からラスベガスで開かれていた家電ショウ「CES」で、ソニーが大量のビデオカメラを発表した。その中に、200ドル以下という超低価格のHD対応製品(1440×1080ドットというハイビジョン相当の解像度)が含まれていて、注目されている。「ハンディカム」ではなく「Webbie」という新ブランドとなる、「MHS-CM1」(199.99ドル:約1万8000円)と「MHS-PM1」(169.99ドル:約1万5000円)の2モデルである。
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| “Webbie HD”というブランドで発売される、ソニーの「MHS-PM1」。解像度は1440×1080ドットで、メモリースティックPRO Duoに記録する。 |
ソニーが現在販売しているHD対応のハンディカムの価格は10万円程度であることを考えると、「衝撃価格」と言っても大げさではない。なぜ、ソニーがここまで低価格のカムコーダを出さなければならないのか。いろいろな理由を付けられると思うが、実は次の1点に尽きるのではないか。
米国で売れている「Flip Video」に対抗せざるを得なかった
とくに、縦型の「MHS-PM1」はケータイメールをやるような感覚で目の前にかまえて正面のボタンで撮影する。PCに接続すれば、YouTubeなどの動画共有サイトに簡単に映像を上げることができる。これらの特徴は、完全にFlip Videoと共通している。
Flip Videoは、1年半ほど前から出てきた米Pure Digital Technologiesの低価格カムコーダである。日本では「ブロガー御用達」などと紹介されたりしていたが、たしかに、使い勝手がブロガー向きである。
・軽くていつでも持ち歩ける
・乾電池駆動
・一般的なカムコーダやサンヨー「Xacti」のように液晶を開く手間がいらない
・USBコネクタが本体から出てくる
・YouTubeなどに即アップロードできる
旅行や運動会でビデオを撮るときには、比較的長時間の撮影をして、あとでまとめて観る。それに対して、ブロガーがやりたいのは、気軽に短かく撮って、小刻みにウェブに上げるという使い方だ。
わたしも、Flip Videoが登場したときに、そのままYouTubeに上げられると聞いて「やるな」とも思った(日本のメディアはほとんど取り上げなかったが、BBCの『Click』で紹介されていたのだ)。しかし、この種の安いカメラは使い物にならないと、たかをくくって無視してしまっていた。ところが、米国ではブロガーだけでなく一般のユーザーにも売れているという。
同類の製品は、Flip Video以外のメーカーからも登場してきていて、ラスベガスのショッピングモールでも手に入るし、Office Depotにも売っている。わたしはスーパーストアの文具コーナーで、RCAの非HDモデルを80ドルで購入した。もちろん、CESの会場でも、Flip Videoに対抗する製品を、ソニーだけでなくいくつも見ることができた。
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| CES会場で見たFlip VideoのライバルともいえるKodakの「Zx1」(左)とクリエイティブの「vado」(中)。いずれもHDに対応する。右はわたしが買ったRCAの「Small Wonder」で、自分撮りができる点はソニーのMHS-PM1に似ている。右に引っ張り出したのが、USBコネクタだ。 |
Flip Videoのような製品が可能になってきたのは、デジタルの掟にしたがって構成部品が安くなっているためだ。HD対応のデジタルチューナが、数千円で売られるようになっているのだから、カメラに搭載されるエンコードチップのお値段も推して知るべし。内蔵のフラッシュメモリも最新モデルの「Flip Mino HD」で4GBを内蔵となっているが、秋葉原の神田明神下方面なら4GBのSDHCが799円だ。
それでは、Flip Videoは、「安いからだけ」の理由で売れたのだろうか? 安くてビデオまで撮れるだけならデジカメですませてもよさそうである。あるいは、YouTubeにワンタッチで上げられるから売れたのだろうか? それなら、カシオのYouTube対応デジカメというものもあった。
カシオは、早い時期からUSB接続可能な小型デバイスを「文具」と称して展開していたメーカーである。デジカメの出荷でも上位をキープしているメーカーだ。カムコーダといえば、サンヨーの「Xacti」がこの分野を切り開いた先駆者なのはご存じのとおりだ。Flip Videoよりキュートで、生活にとけ込むようなデザインの製品、スポーツタイプの製品なども、とっくに発売している。
しかし、Flip Videoが米国で支持されている最大の理由は、そのシンプルさなのである。
記録媒体は、内蔵メモリで1時間だけ。固定焦点で、光学ズームはなくデジタルズームが2倍まで。静止画も撮れず、電源は最新のMinoシリーズは内蔵リチウムイオンバッテリだが、旧モデルは乾電池だった。本体裏側は、iPodを思わせるシンプルさである(中央にキャプチャ、上下に+-、左右に<>、その上の左側に再生/ポーズ、右にゴミ箱ボタンしかない)。そして、なんといっても便利さ絶大なのが、本体から飛び出すシッポ(USBコネクタ)だ。
今回のソニーのMHS-PM1は、Flip Videoに対抗する製品だとしても、スペック的には、Flip Mino HDをはるかに凌ぐものになっている。価格も、229.99ドルに対して、169.99ドル(ただし、Minoの実売価格を考えればいかにもぶつけてきた価格である)。Mino HDの解像度が、1280×720ドットに対して1440×1080ドットと、すべての点においてソニーがFlipを凌駕している。
おそらく、ソニーのMHS-PM1は売れるのでないかと思う。日本人の好みとしては、一般的なカムコーダー型のMHS-CM1に落ち着くのかもしれない。いかにも旅行先でガッつく映像をおさめたいジャパニーズ根性的だが、そういうときに持ちやすいのはこちらだからだ。それでも、MHS-PM1が、日本でも売れる可能性はある。サンヨーXactiのHD版「DMX-HD800」(1280×720ドット)は、実売で3万円はするのである(光学系などの違いはあるだろうが)。
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しかし、どうも釈然としないのだ。
米国のスーパーストアでは、台湾や中国製の安いデジカメが大量に売られている。Flip Videoは、安い同類のカムコーダーや、動画撮影機能のあるデジカメの混沌の中から、見事に浮上してきたのである。一方、いまのところ米国の家電量販店のカムコーダ売り場には、日本製の高性能品がズラリと並んでいる。その中で、シンプルな単機能機のFlip Videoが残ったことが気になるのだ。
要するに、スペックよりもどう使うかということやライフスタイルを優先させている。Flip Videoという物体が、「映像を撮る」という動作についてのアイコンとして機能しているような気もする。そして、本体からニョキッと出てくるUSBコネクタ(シッポ)が目印である。それによって、カムコーダは、電源コードが本体から生えた電動鉛筆削りのような文具になった。あるいは、コードがシュルシュルと引っ込む電気掃除機のような白モノ家電になったのではないか?
まあでも、ソニーは、MHS-PM1のAV機器として見慣れた色と形でいいのだという気もする。日本のメーカーが戦うべきところは、アジア系の低価格製品の領域ではないということだ。
アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。