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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.11
2009年01月28日 18時44分
米大統領選挙とコンピュータには、ちょっとした縁がある。1952年の選挙(共和党アイゼンハワー VS. 民主党スティーブンソン)が、一般の人たちにコンピュータというものを知らしめたからだ。米国最初の商用コンピュータ「UNIVAC I」がCBSのテレビ番組に登場し、専門家たちの予想に反して、アイゼンハワーの大勝の予測。最初は、番組もコンピュータの予想を軽視していた。ところが、開票が刻一刻と進むにしたがって、コンピュータの予測が的中していたことが明らかになっていったのだ。
1月1日付けで日本のグーグル社長に就任した、元ソニーの辻野晃一郎氏が挨拶するというので、同社のある渋谷セルリアンタワーに出かけた。グーグルの世界戦略が次のフェイズに入り、各国の特性を生かしたサービスにも取り組んでいくという。それも注目だが、「おお、そうなのか」と思ったのは、米グーグルのエリック・シュミットCEOが、オバマ政権に対しても積極的に助言を行っているという話である。
その後、日本におけるYouTubeのシニアプロジェクトマネージャの徳生裕人氏が登場。YouTubeは、いわずと知れた世界最大の動画共有サイトだ。「1分あたり15時間以上の動画がアップロード」や「1週間のアップロード時間は映画8万6000本分に該当」とか、「月に1000万ページのウェブサイトで埋め込み動画が再生」というのは、中国の昔話のようなスケール感である。
YouTubeの意味は「あなたのテレビ」だったと思うが、まさにその「あなた」がフラット化している。英国王室やローマ教皇庁、日本の首相官邸も負けずにYouTubeにチャンネルを作っている。となりのみよちゃんもエリザベス女王も、同じサーバから世界に映像を発信している。徳生氏は、ちょうど「弊社のお客さまの利用例」というような感じで、「オバマ大統領によるYouTubeの利用」というプレゼンテーションを行った。
米大統領選挙での動画利用といえば、ヒラリー・クリントン候補の「ヒラリーテレビ」も話題となった。しかし、その徹底した活用ぶりという点では、オバマ候補のほうが上をいっていた。キャンペーン中に1800本の動画をアップロード(キャンペーン最終の3日間には、52本の番組をアップロード)。専門の撮影班によるものから事務所のウェブカメラまでを使い、「映像の物量作戦」でYouTubeを利用しきった。「品質よりも、頻繁にメッセージを送ることを重視したことが特徴」(徳生氏)だという。
オバマのYouTube利用がどれだけ凄いかは、次の数字が物語っている。米国では112人の政治家がチャンネルを持ち、再生回数は合計2億回にのぼるが、その約半数の1億回がオバマの動画だというのだ。大統領就任後も、オバマはYouTubeで動画を配信している。1月22日には、ホワイトハウスのチャンネルが開設され、大統領の就任演説などを配信している。また、通常はストリーミングで見られるだけの映像を、YouTubeはオバマの動画に限ってダウンロード可能にしてしまった。
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| My.BarackObama.comのスッキリとまとまったトップ画面。右上に「寄付のお願い」ボタン、右下の画面リンクをクリックするとさまにYouTubeに繋がって、親切な同サイトの使い方のビデオが始まる仕掛けだ。 |
もっとも、オバマのネット上の活動拠点である「My.BarackObama.com」(MyBO)は、民主党、共和党で18人の候補がいた2年前の段階で、すでに注目されていたという。そして、オバマの選挙活動できわめて重要な役割をはたしたといわれるのが、このMyBOやフェイスブック、マイスペースといったSNSである。
オバマ VS. ヒラリーの戦いとなったときには、「オバマは16個のSNSを活用。ヒラリーは5個なので、オバマが勝つだろう」と言った人がいた。SNSは支持者のコミュニティとなり、またメッセージをスパムにならずに頻繁に送れるというメリットもある。ヒラリーからは、「助けてくれ」という調子の選挙資金を求めるメールを貰ったという話も聞いた。
選挙活動に「ネットを活用する」といっても、ネットビジネスで成功するのは、ほんの一握りの人たちである。同じようなサイトがいくつもあって、その中でトップの位置を確保するのは、宝くじを買うような感覚といってもよい。オバマは、どうやってネット戦略をうまくやってのけたのか? 実は、ネット業界の方ならヒザをポンと叩きたくなるような話がある。
2008年7月7日の『ニューヨーク・タイムズ』に、「Facebooker Who Friended Obama」(オバマの仲間になったフェイスブック野郎)という記事が掲載されている。冒頭、ヒラリーの選挙参謀が、
「オバマの支持者はフェイスブックみたいだ」
となかば小馬鹿にした発言をしたことがあると書かれている。たしかに、ほんの2年半前まで、フェイスブックは学生のためのサイトだった。しかし、1月7日のこのコラムに掲載したグラフを見てほしい。2008年に入ってから、フェイスブックはアクロバティックともいえる伸びを示しており、グーグルを飛び越えるパワーを持ちつつあるSNSなのだ。コラムでも書いたが、「2008年はフェイスブックの年だった」といっても大げさではない。
記事によると、フェイスブックの4人の創設メンバーの1人が、オバマのネット戦略の立役者だというのだ。そのクリス・ヒューズという人物(24歳という若さだ)は、2007年の始めにオバマ候補の新しいメディア戦略の仕事をするために、すでに注目されるネット企業となっていたフェイスブックを去った。そして、それまでの選挙サイトとは比べものにならない水準で、ウェブを政治のツールにしたてあげた。オバマ自身が、SNSを、彼の成功において「重要な役割」を果たしたと認めているとある。
もろちん、オバマはネットだけで選挙戦を戦ったわけではない。高年齢者層など、ネットを使わない人もいる(米国のブロードバンド率は高くない)。日本で、デジタル業界のトピックから眺めているくらいでは、大統領選挙の本質も分からないというものだろう。大統領就任演説の中でも、ネットを使ったコミュニティや、米国が強いはずのネットエコノミーの可能性などについての言及はなかった。
しかし、オバマの戦いは、いまのネットやデジタルの世界をそのまま映し出しているように思えるのだ。そこで、オバマが大統領選挙をどう戦ったかを、その視点から眺めると次のようになる。
1.「ロングテール」
オバマは数百万人より最低10ドルからの献金を集め、過去最高の資金を集めたと報じられている。
2.「ネット技術」
米国を代表するSNSサイトの創業メンバーによる超一流のネット戦略と、それを支えるネット技術があった。
3.「CGM」(ユーザー生成メディア)
YouTubeにはインド映画風のMAD系(パロディっぽい二次創作)の応援ビデオなどが上がっている。オバマ主役のカンフーゲームなどもある。
4.「バズ」
SNSで人とお金を集めて、そのお金でテレビCMを制作、テレビ放映3時間前にはYouTubeで流す。SNSの口コミ効果を最大限生かす。
5.「モバイル」
スマートフォンの「ブラックベリー」を活用していることが報じられている。
「大統領選挙がクラウド化」したなどとは、あの選挙運動に集まる人たちを見ていると言えはしないが、一枚めくってこの角度から見ると、まるでネットの世界の縮図のようだ。それの総まとめともいえるのが、テレビという20世紀が生んだ最大のメディアと競合しつつあるYouTubeのフル活用ともいえる。ちなみに、ヒラリーやオバマと同じ民主党のジョン・エドワーズ候補は、セカンドライフでキャンペーンを展開したが、成果を上げたかは疑問である。
4年後の2012年には、また米国大統領選挙がやってくる。今度は、広告代理店やPR会社やコンサルタントというのではなく、成功しているネット企業が、大統領選挙の戦略やキャンペーンを請け負っている可能性がある。
毎週火曜日に、アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。