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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.12
2009年02月12日 16時53分
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| T-mobileのアンドロイド端末「G1」(左)とiPhone(右)。アンドロイドとiPhoneのアプローチは、実は結構異なっている。 |
米国の携帯電話ほど、不運な歴史を歩んできた業界はない。携帯電話(移動電話)とコンピュータが、どちらも戦後間もないほぼ同時期に開発されたものであることをご存じだろうか? 最初期のコンピュータの1つ「ENIAC」が公開されたのが1946年2月、同年6月には、AT&Tが自動車電話のサービスを開始しているのだ。翌1947年には、1980年代の携帯電話で使われるセルラー方式も開発されている。
現在のような携帯電話のサービスを最初に開始したのは日本である(1979年)。早くから取り組んだはずの米国が遅れをとったのは、FCC(連邦通信委員会)の厳しい電波行政のためだとも指摘される。これにAT&Tの独禁法訴訟による分割と、それがもたらした混乱が追い打ちをかける。1980年代の米国は、「ケータイ後進国」と呼ぶにふさわしく、隣の州の人とは通話できないような未開の時代だった。
こんな話を思い出したのは、三井ベンチャーズ主催の「i*deal competition」の最終選考と表彰式に参加したからだ。このコンテストは、iPhoneやアンドロイドを想定したソフトウェア・サービスの開発プランを競うものである。受賞者の説明を聞いていると、まさにiPhoneとアンドロイドが、携帯電話の歴史を大きく塗り替えようとしているのだと実感する。
iPhoneもアンドロイドも、どちらも窮屈で封建的な携帯電話の世界からの脱却をうたうものだ。いわば、従来の携帯電話キャリアや端末メーカーや業界全体に対する強烈なアンチテーゼだといってもよい。ところが、2008年11月にグーグルがアンドロイドの推進団体「Open Handset Alliance」を立ち上げた際に、耳を疑うようなことが起こる(だからニュースにもなった)。FCC長官が、わざわざ「この動きを歓迎する」とコメントしたのである。
FCCの関係者も、ティム・オライリー主催の「Web2.0コンファレンス」(2005年頃から盛り上がったWeb2.0ブームの発端となったイベント)に出かけたのか? それとも、トーマス・フリードマンの『The World Is Flat』(邦題「フラット化する世界」)を読んで、ネットが米国の経済や政治に大きな意味を持つと痛感したのか? 実は、グーグルはアンドロイド発表までの間に、FCCに対して相当にハードなネゴシエーションをやったと伝えられる。
FCCが「よっしゃ」と言ったかどうかは分からないが、グーグルのいくつかの提案が受け入れられた。その内容とは「携帯電話を米国が得意とするPCのような世界する」という方向性のものである。つまり、どの端末でも好きな通信キャリアを選べ、自分の好きなソフトを走らせることができる。これは条件付きだといわれるが、米国の携帯電話は、歴史的な転換点を迎えているといえそうだ。
アンドロイドに関しては、さまざまな情報が流れているが、なんとなく「iPhoneみたいなもの」という印象しか持っていない人が多いのではなかろうか? 私も、米国で発売された「G1」を触っていて、ある共通点があることは感じていた。すなわち、「これは、新しい時代のコンピュータ」だということである。戦後間もない、ほぼ同じ頃に誕生したコンピュータと携帯電話というものが、初めて合体して新しい形を模索し始めたのだ。
もっとも、iPhoneとアンドロイドは、どちらも有力な次世代モバイルプラットフォームではあるが、その技術的な基盤や開発にあたっての自由さは大きく異なっている。
iPhoneは、当初はユーザーにソフトウェアを開発させる予定はなかった。しかし、開発キットを配布して、App Storeでソフトの流通を始めると、1台あたりでは音楽の比ではない売り上げになった。アップルは、ソフト価格の30%を受け取る仕組みになっており、1日ザッと1億円の利益が出ているものと思われる。ウハウハとは、まさにいまのアップルのiPhoneソフトの商売というものだ。これに味をしめたジョブズは、
「iTunes Store式で次は何を売ろう」
などという話をしているのではないか。柳の下にもう1匹どじょうがいるのか、この状態がいつまでも続くのかなどは見えない。しかし、iPhoneというのは、ジョブズが箱庭を用意してあげて、そこでみんなが盛り上がって遊んでいるような感覚がある。
それに対して、アンドロイドは「なんでもできてしまう」とさえ思えるオープン性が最大の武器だ。i*deal competitionの受賞ソフト/サービスプランの中にも、なるほどこれはアンドロイドならではだと思わせるものが含まれていた。P&Kの「Ring Back Web(RB Web)」は、電話をかけたときに、指定しておいたウェブページを呼び出し音の代わりに相手の画面に出せるというものだ。NTTドコモの「メロディコール」のような仕組みだが、ウェブページが出せるというのは、従来のケータイ業界の発想では出てこないだろう。
発信・着信というのは、携帯電話のいちばん基本的な部分で、ここを侵されてしまうと通信事業者としてのアイデンティティはどうなるのか? もっとも、通話それ自体も「Skype」や「IP電話」で、すでに電話交換機のお世話にならなくてよくなっているのではあるが。
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| iPhoneとアンドロイドは触った感じは似ているが中身はまるで別モノだ。この2つが携帯電話の今後をどう変えていくのか? |
長くて辛かった携帯電話の歴史を棄て去って、米国の携帯電話は、いま世界をリードしようと動き出したところだ。携帯電話の変革が、初めて米国から起ころうとしているというほうが適切かもしれない。携帯の世界はもっと奥が深いので、簡単には変わらないよという意見もあるだろう。しかし、したたかな2社だけに油断はできない。iPhoneとアンドロイドは、まったくアプローチは異なるが、電話というもののあり方を根本から変え、メカニズムを顴骨奪胎する可能性がある。
世界中の携帯電話が本当に変わってしまったとしたら、何が残るのか? それは、数字11桁ほどの「電話番号」だけかもしれない。
アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。