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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.13

ガラパゴス化の正体

2009年02月18日 17時23分

「Nokia 5800 XpressMusic」。ノキアのS60(シンビアンOS)採用端末ユーザーにはお馴染みのアイコンが並んだ画面だが、気の利いたテーマも配布されている。iPhoneと同じくキーボードを持たないところが最大の特徴。1カ月半ほど使い倒してみたが、ガラパゴスの外側を感じる。

 2008年11月に発売された「Nokia 5800 XpressMusic」(以下5800XM)の出荷が、わずか2カ月あまりで100万台を突破したそうだ(単純には比べられないが初代iPhoneとほぼ同じペース)。「ノキアのiPhone対抗モデル」などと書かれることのある5800XMだが、iPhoneとの本質的な違いは「ケータイ」としての完成度の高さだ。日本ではボーダフォンが2004年に「702NK」として発売した「Nokia 6630」あたりから続いてきた、ケータイのオープン化路線の現在形というべきである。

 この端末、世界のケータイの40%のシェア(年間3億5000万台出荷!)を握る会社が、いま何を考えているのかを知るにはよい題材といえる。例えば、いま日本でiPhoneユーザーが「これ凄いでしょう」と周りの女の子たちに見せびらかしているようなソフトのうちのいくつかは、すでにノキアにあったりしそうである。iPhoneが提案している「MobileMe」と同じような「File on ovi」というサービスもやっている。なんのことはない、わたしも含めた日本のケータイユーザーが「ガラパゴスリクイグアナ」だったのだ。

 日本のケータイが、世界的に見ると特殊な進化をとげているというのは確かだろう。そして、世界のケータイ市場に占める日本メーカーのシェアは、すべて合計しても10%にも満たない(数%のソニー・エリクソンは含まず)。メーカーの撤退というニュースも出てきていて、その理由は「ガラパゴス化」ではないかという議論もされてきた。そこで、「どうするのだ、日本のケータイメーカー」というようなお話になりがちである。

 だが、日本のケータイがダメなのかというと、そんなことはないと思う。グーグルが主催した「Android Developer Challenge」という、アンドロイド用アプリのコンテストに出てきたものを見ると、日本ならとっくに既存キャリアで動いているようなものが評価されたりしている(日本のケータイソフトがiPhoneのようなオシャレ路線にいかないのは、むしろ端末の存在のしかたという整理が必要だ)。プリクラで撮影した画像が、ケータイのプロフに貼れたりする日本のケータイ×ギャル文化というのは、世界に自慢してもいいのではないかとも思う。

 そこで思うのは、日本のケータイが海外に出て行けない、「ガラパゴス化」と呼ばれている問題の正体は、「日本が世界と違う」という性質のものではないのではないかということだ。

 この問題の正体は、実は、ケータイがある種の「レガシー・システム」になっているからなのではないだろうか(レガシー・システムとは、企業などで使い続けられている古いコンピュータシステムのことで、最新の技術と組み合わせるのが大変でメンテナンスにも手間がかかる)。つまり、ケータイを動作させるソフトウェアが、“チカラわざ”で作られていることに問題がある。その結果、ケータイメーカーは国内の高機能モデルの開発に疲弊して、世界に出ていけないなどという話になるのではないか?

 ケータイのこのような開発環境は、日本だけではなく世界的な問題のようである。PCにも、かつてはOSなどというものはなかった(いきなりBASICが動いた)。けれども、OSを導入することでソフトの開発が容易となり、PCが高機能化するにつれてOSも高度なものに進化していった。いま風のPCのソフトを昔の手法で書くには、想像を絶する手間と時間がかかることを考えれば、この関係は明らかである。もちろん、ケータイOSの世界も進化してきていたはずではあるが。

 そこで、ケータイのソフトウェア開発を効率化する提案がされてきている。例えば、LinuxなどのOSにケータイに必要なモジュール、UI(ユーザーインターフェイス)をまとめてプラットフォームとする。ケータイ業界がそうしたものを出してきたところに(ACCESSの「ALP」もそうしたものの1つだ)、グーグルの「アンドロイド」やアップルの「iPhone」が登場した。彼らはこうした動きを見て、ケータイの意味を本質的に変えるべく、自分たちのフィールドに引きずり込もうとしているのだ。デジタル機器には、高度化するにつれて、どこかで組み込み系からコンピュータに近いOSの選択を迫られるタイミングがある。ケータイ業界は、いまその期が熟しきっている。そこで日本なりの動きができるかどうかが、非常に重要ではないかと思う。

 ガラパゴスの外側では、さまざまなことが起きていて、HTCやBlackberryやiPhoneやアンドロイドで驚いている場合ではない。ケータイを世界の誰よりも知っている「進化しすぎたガラパゴス」ならではの、正しい次のステップがあるはずなのだ。

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■このコラムについて

 毎週火曜日に、アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

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