アスキー総合研究所 >  所長コラム > Windows 7はセンサOS?

【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.15

Windows 7はセンサOS?

2009年03月03日 15時58分

Call-a-Bike
ベルリンのレンタル自転車「Call a Bike」。ドイツ鉄道が運営するもので、自転車との組み合わせで車に対抗する戦法だろうか? 2007年に開始したサービスだが、いまでは市内のいたるところで、この風変わりな自転車を見ることができる。

 前回、位置情報を生かしたシステムがネット上にある情報と連動して、進化し始めていると書いた。ところが、コラムを掲載する段になってちょっと手間取ってしまった。GPSの利用例として、ドイツやフランスのレンタル自転車と書いてみたら、「レンタル自転車にGPSは搭載されていないのではないか?」という意見が出たからだ。

 少なくとも、パリの「Velib'」(ヴェリブ)というレンタル自転車にはGPSは使われていないらしい。よく確かめもせずにGPS搭載と書いたのは、ドイツのレンタル自転車にはGPSが積まれていると信じ込んでおり(ガイドブックにそう書いてあったと記憶している)、当時フランスに住んでいたBさんとベルリンで落ち合ったら、「パリにも同じものがある」と言ったからである(人のせいにしてしまっているが)。

 その、ドイツ・ベルリンのレンタル自転車「Call a Bike」には、2種類のシステムがある。決められた場所で乗り降りできるものと、乗り捨て自由のものだ(利用後は交差点に置いておく)。ケータイで電話して申し込み、ロックの解除番号をもらったら一定時間利用できるのだが、GPSがないと、あとでスタッフが自転車を探すのが大変そうである(乗り捨て自由のシステムの場合)。しかも、ベルリンの地下鉄は車両の一部が自転車エリアになっていたりするので、かなり遠くまで移動できそうでもある。ところが、Call a Bikeの公式サイトを見ても、「GPS搭載」とはどこにも書かれていない。

 位置情報やセンサ系の話といえば、GPS電子タグやiPhone関連以外にも話題は多い。β版が配布されているマイクロソフトの次期OS「Windows 7」には、GPSやセンサまわりのドライバが搭載されている。現行の「Windows Vista」は、開発コードで呼ばれていた時代には「検索」が売りのひとつだった(Mac OS X Tigerでも「Spotlight」という検索機能がセールスポイント)。仮にVistaが「検索OS」となるはずだったものだとすると、Windows 7は「センサOS」という側面を持っているともいえる。あくまで何が目新しいかという見方ではだが、USBもBluetoothも、Windowsに標準搭載されるタイミングというものが大きな意味を持っていた。

 経産省は、2008年7月、地理情報と位置情報を組み合わせることによって新しいサービス産業の創出をめざす「G空間プロジェクト」という政策パッケージを発表した。観光・文化やマーケティングなどのほか、安心・安全、国土の有効利用などを想定。2013年には、位置情報に関連したサービス産業が10兆円という市場規模になるとしている。ちなみに、これがどのぐらいの数字かというと、野村総研の試算による同じ2013年のコンシューマ向けEC市場が11兆円だそうだ。

Show Us a Better Way
英国政府がデータ活用のアイデアを募集した「Show Us a Better Way」コンテストの結果は、位置情報に関するアイデアが目立った。住んでいる場所から子供が通える学校(学区)を示してくれるサービス、利用できるリサイクルに関係する組織や施設が分かるサイト、英国近海の沈没船の位置が分かるサービスというアイデアもあった。

 英国政府は、トム・ワトソン内閣府大臣が中心となって「Power of Information Task Force」(情報力タスクフォース)というプロジェクトを推進中である。同大臣は、昨年暮れに「子供にテレビゲームを推奨する」という内容のコメントで話題となったが、昨年7月から、政府が持つデータを活用するアイデアのコンテストを実施している。ちょうど、グーグルの「10の100乗コンテスト」のような感覚で、やるべきサービスを、ちゃっかり市民に聞いてみようという発想である。11月にその結果が発表されたが、実に、位置情報に関連したものがほとんどだった。個人的には、もっとブッ飛んだアイデアはないのかとも思ったが、要するに政府は土地が縄張りなわけで、位置情報系になるのはある種必然ではある。

 位置情報やセンサ系のサービスの特徴は、デジタルの中にとどまらず、リアルな世界との組み合わせで成立するところにある。政府や交通機関などの社会インフラと関わる、本来の意味での「エコ」まで視野を広げてやる必要がある。日本のケータイは、すでにFeliCaやGPS、さまざまなセンサを搭載し、この領域では世界的にも進んでいると見ることができる。しかし、その本領はまだこれからというべきである。英国の取り組みは、政府や公的機関のデータが「API公開」されることを前提としているが、日本ではその部分が進んでいないからだ(G空間プロジェクトもそこは考えているのかもしれないが)。

位置情報・センサ系を取り巻く状況
位置情報・センサ系を取り巻く状況をマンダラート風にしてみた。1~2年前とは状況が大きく異なることが分かる

 ドイツのレンタル自転車が「GPS搭載」か否かという議論は、まさに位置情報やセンサ系のシステムならではの難しさを物語っている。ベルリンという都市の交通システム全体や住んでいる人たちの生活習慣、モラルなども配慮しないとわからない。いままでも、社会インフラ系のシステムには、こうした要素があっただろう。しかし、センサ系のアプリケーションでは、より「生」の人々の生活や行動に関係してくる。机上の議論ではどうしてもGPS搭載しかあり得ないように思えるベルリンの「Call a Bike」には、どうやらGPSは搭載されていないようである。

カテゴリートップへ

■このコラムについて

 アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

2012年01月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年09月
2011年08月
2011年07月
2011年06月
2011年04月
2011年02月
2010年11月
2010年10月
2010年09月
2010年08月