アスキー総合研究所 > 所長コラム > ジャパネットたかたのテレビ論(続)
【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.19
2009年04月08日 20時08分
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| ジャパネットたかたの原点でもある、「カメラのたかた」佐世保営業所の模型。ジャパネットたかた本社スタジオの入口に置いてある。 |
前回の続き。
ジャパネットたかたといえば、先週の『日経ビジネス』(2009年3月30日号)の「消費退国/ニッポンの生活者を掴め!」で扱われていたのをご覧になった方もおられるはず。大手家電量販店を含む国全体の消費が冷え込む中、2008年も対前年比18%増、経常利益率5%前後を維持し続けている秘密に迫ろうというものだ。この記事の中でいちばん注目すべきなのは、「(販売する商品を)最終決定するのは当日の午前9時頃だ」という部分ではないかと思う。
テレビジョン(television)というのは、遠くにあるものが見える装置である。『Oxford English Disctionary』によると、“『Scientific American』(1907年6月15日号)には、電送写真の技術などが「テレビジョン」実現への着実なステップになる”といったことが書かれている。テレビの実験放送が行われる30年も前に、「テレビジョン」とか「テレビスタ」(televista)いう言葉がもう使われている。遠くの風景を目の当たりにすることができる技術は、まさに夢の技術だったといえる。
ジャパネットたかたの高田明社長のお話で感じたのは、このテレビジョンの「遠くのものを見る」といういちばん基本的な特徴を、同社が最大限に生かしているということだ。例えば、ジャパネットたかたは「生」放送にこだわっており(前回記事参照)、全国の地域ごとに、天気などによって商品や話題を変えながら、お茶の間に直接語りかけている。さらに、放送直前まで販売価格を吟味することもできる。
ジャパネットたかたには、ロングテールも協調フィルタリングも、ワンツーワンマーケティングもない。ヨドバシカメラやアマゾンのように、全方位的な品揃えの充実や、客の滞留が重要というわけではないからだ。絞り込んだ少数の商品しか扱わないので、売れ行きを見ながら売り方や売る数も工夫していける。ひとことでいえば、ジャパネットたかたの販売方式は、駅前商店街の生鮮食料品をあつかうお店と同じである。店頭に立っているオヤジが「お客さん、今日はいいサバが入りましたよ」という感じで語りかけてくる。
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| ジャパネットたかたはテレビを介して、商店街のオヤジと客の距離と同じ距離感を作り出している。 |
このやり方で、2009年にはネット販売がテレビ通販を超え、おそらく家電・デジタル機器のネット通販では日本一になると思われる。これだけ来ているとなると、『ロングテール』(The Long Tail: Why the Future of Business is Selling Less of More)の著者クリス・アンダーセン氏に教えてあげたくもなってくる(ちなみに、彼はいま「無料」エコノミーについての本を書いているそうだ。日本でもこの夏以降、「無料」についての議論が盛り上がるだろう)。
ジャパネットの社内の何カ所かで、古いカメラがショウケースに並べて飾られているのを見かけた。そこで、「自宅がカメラ屋さんだったので、ご自身もカメラにこだわりがあるんですね」と聞くと、意外な答えが返ってきた。「カメラというのは、持って撮影しないと人生の足跡を消しているような気がするんですよ。カメラには、自分の感動の記憶や生きた足跡を残していく役割が確実にあります」。カメラやビデオカメラは感動を記録する装置であり、そこから生まれるコミュニケーションに価値がある。とても人間的な機械だというのだ。
ジャパネットたかたの場合、「さて、気になる価格は?」と持っていく話の盛り上げ方もストーリー性の高いものになっている。しかし、最大のポイントは“それで何が得られるのか”ということだ。そして、子供や家族やお年寄りといった、日本人の非常にベーシックな生活に焦点を当てている。「お子さん」とか、「記念になる」といった言葉が決めのワードといえる。
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| 「高校を卒業する際に、1人ずつビデオでメッセージを撮るという法律を提案したい」とも語る高田社長。卒業写真も、始まった頃はハイテクだったはず。この話も、よほどメディア論的だと思う。 |
わたしが見学したときに放送していた、サンヨー製の排気のキレイな掃除機(5万円)の話も興味深かった。高田社長は、「主婦もエコを意識してきています。ところが、専業主婦がエコとしてできることは少ない」と指摘する。だが、5万円で掃除機を買うことで、主婦でも地球環境を守ることへの参加感を得られるというのだ。エコという地球規模の問題を、いきなりグググッとにじり寄って、パーソナルな問題として捉えているところが凄い。
金利負担や設置サービスもジャパネットたかたのウリで、客に近い位置に、徹底して立とうとしている。つまり、テレビという「遠くのものを見る」装置を使って、駅前商店街のルールを全国規模にあてはめてしまったのが、ジャパネットたかたなのではないだろうか? 高田明社長の、1/2オクターヴ高い声や長崎訛りの喋り方もまたジャパネットたかたのポイントではあるのだが、同社の強さの本当の理由は、“メディア企業だから”だというほうが正しいと思う。
毎週火曜日に、アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。