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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.22

Googleブック検索と、20万冊の本を書いた男

2009年04月30日 22時10分

ニューヨークタイムズ記事
『ニューヨークタイムズ』2008年4月14日付け記事「He Wrote 200,000 Books (but Computers Did Some of the Work)」。

 毎日のように書店にでかけて本を買いまくっている人は、米国に移住したくなるかもしれない。いま、日本の本屋さんで売られているたくさんの本が、米国では10月7日以降に、ネットで無料か非常に安いお値段で読めるようになる可能性があるからだ。

 ブック検索についてのグーグルと米国作家組合・出版社協会との和解結果によって、日本の本が米国内では一般に流通していないことを理由に「絶版」扱いになっている。このまま何もしないでいると、グーグルは全文をコピー・印刷可能、広告付きで配信サービスできる。

 しかし、「いままでだって図書館では本なんか無料で読めたでしょう」という突っ込みもありそうだ。本屋の息子が、本が読み放題だからといって読書三昧しているわけでもないだろう。つまり、本がネットで無料(または非常に安いお値段)で読めることに、「ブック検索」の価値があるのではない。

 ブック検索の真の価値は、「書籍という良質のテキストを検索できる」ことにある(そのままネットで読めることがそれを決定的にしている)。検索というテクノロジーが、1000年以上の歴史を持つ「本」というシステムをレガシーに押しやろうとしている。テクノロジーが、本というか、知的活動のスタイルや表現の領域を、根本的に変容させはじめている。これは、そのほんの序の口ではないかと思うのだ。

テクノロジーは、メディアを容赦なく変えていく
左側のメディアが右側に挙げたものに変容。どんなメディアも登場したときはニューメディアなのだが、デジタルによって(1)パッケージの終焉、(2)送り手と受け手の多様化、(3)無料化が起きている。

 ちょうど1年ほど前の『ニューヨークタイムズ』(2008年4月14日付け)に、「He Wrote 200,000 Books (but Computers Did Some of the Work)」(20万冊の本を書いた男《コンピュータのお世話になってだが》)という記事が掲載された。当時、月刊アスキー編集部のMさんに、「こんな記事がありました」と教えてもらったときは、「冗談でしょ!」と思ったが、これがそうとも言い切れないのである。

 記事は、「本を作るのは大変だ。まず題名を決めて、表紙を作り、目次を作り、ISBNの登録をしたり、裏表紙も作らないといけない。おっと、忘れていた本の中身も書かなきゃいけなかった」なんて調子で始まっている。しかし、記事タイトルのとおり、本当に20万冊の本を書いたという人物がいる。試しに、その「Philip M. Parker」という著者名で探してみてほしい。Amazon.comでは、107,148冊の本がズラリと並んで出てきた。

 それでは、パーカー氏は、どんな本を書いているのか? ズラリと出てきた本を眺めていくと、医療系から専門的な事典、特定分野の市場概要、クロスワードパズル辞書まである。売れているものは数百部、たいていのものが数十部は売っているとある(ほとんどがペーパーバック)。記事にも、「これは!」と思える本について何冊か触れているが、ほかにも楽しそうな本が揃っている。



『世界の木製便座 2007:都市による市場分析』
(The 2007 Report on Wood Toilet Seats: World Market Segmentation by City)
ICON Group International, Inc、ISBN-10: 0497738481

『インドの6×9フィート以下の飾り付き洗濯可能敷物とバスマット 2007~2012』
(The 2007-2012 Outlook for Tufted Washable Scatter Rugs, Bathmats and Sets That Measure 6-Feet by 9-Feet or Smaller in India)
ICON Group International, Inc、ISBN-10: 0497483726

『日本のビン入りレモン水 2007~2012』
(The 2007-2012 Outlook for Lemon-Flavored Bottled Water in Japan)
ICON Group International, Inc、ISBN-10: 0497472759




パーカー氏の著作
パーカー氏の著作『The 2007-2012 Outlook for Lemon-Flavored Bottled Water in Japan』(日本のビン入りレモン水 2007~2012)。この本を買うのは……C1000のハウスウェルネス、CCレモンのサントリー、クリスタルカイザー、ポッカなど、意外にあるかもしれません。

 いずれも、日本のアマゾンからも買えるのだが、なんと便座本は795ドル(330ページ)、インドの敷物本は495ドル(144ページ)、レモン水は495ドル(140ページ)もする。稀覯本(?)だからといって、ASUSのEeePCが買えるお値段。数十ドルの本もあるので、わたしも買ってみようとは思うのではありますが。

 Amazonのレビュー欄で問い合わせてきた読者に対して、パーカー氏は、「あなたがネットを十分に使いこなせるならこの本は不要です」と答えたそうだ。要するに、彼の本は、60~70台のコンピュータと6~7日のプログラマが開発したシステムによって、ポトン、ポトンと生み出されるものなのだ。

 実際のところ、パーカー氏の本の内容はあまり期待できないと思う。しかし、これがジョークではないことは、「グーグル・キラー」などと呼ばれる検索エンジンがAI(人工知能)系だったりすることが物語っている。パーカー氏によると、「恋愛小説を書くためのアルゴリズムの基本部分はすでに完成している」という。

 いずれ、人は本を書かなくてもいい時代がくるのかもしれない。

追記

 ブック検索に関しては、この原稿を書いている間にも『ニューヨークタイムズ』に「Justice Dept. Opens Antitrust Inquiry Into Google Books Deal」(米司法省がブック検索について反トラスト法の面から調査を開始した)という記事が掲載された。また、5月5日とされていた和解に対する参加・非参加の表明期限が、9月4日に延長されたという報道もあった。


 2009年4月23日に、アスキー総研とワイアードビジョン、慶応義塾大学メディアデザイン研究学科が共催したトークセッション『グーグルの権利覇権と情報流通革命』でも、新しい情報があった。講師の福井健策弁護士によると、グーグル・ジャパンの担当者と意見交換をしたところ、同社は、米国からAmazon.comなどのネット書店を通じて入手可能な日本の本は、「絶版」の扱いにならないよう動いているとのことだ(これを書いている時点ではそうなっていないが)。


 つまり、ブック検索に関してはまだ見えない部分もあるのだが、ネットや検索のテクノロジーが、これからも「本」とそれを取り巻くしくみを変えていってしまうのは確実である。

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■このコラムについて

 アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

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