アスキー総合研究所 > 所長コラム > 古代ギリシャのコンピュータと4ビットマイコン
2009年06月17日 20時47分
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| アテネ国立考古学博物館所蔵の、「アンティキテラの機械」。 |
『ワシントン・ポスト』に、最も権威ある科学本の賞とされる「Royal Society Prize For Science Books」の最終候補作が決まったというニュースがあった。その中に『DECODING THE HEAVENS』という本があるのだが、副題が「Solving the Mystery of the World's First Computer」となっている。「the World's First Computer=世界最初のコンピュータ」とは聞き捨てならないではないか。
調べてみると、すでに日本語訳が出ていた。『アンティキテラ/古代ギリシアのコンピュータ』(ジョー・マーチャント著、木村博江訳、文藝春秋社)である。1901年に、アンティキテラ(アンティキティラ)島の付近で発見された古代ギリシャの沈没船が積んでいた「アンティキテラの機械」をめぐって、その研究者たちの辿った道のりとともに、最新の研究で明らかになった事実を紹介している。
アンティキテラの機械は、2000年もの間海底で眠っていた朽ち果てたブロンズの塊というようなものだが、1950年代には、X線技術が天体の運行に関係する機械であったことを明らかにする。そして、最新のCT断層写真やCGを駆使した研究が、それを、「コンピュータ」と呼ぶに相応しいほどの機械だったことを明らかにしたというのだ。
かつて作家のアーサー・C・クラークは、アンティキテラの機械について「この知識が正しく継承されていたら、産業革命は1000年早く起こっていただろう」と述べたそうだ。その技術水準は、メカニズムの解明や機械に刻まれた「使用説明」が解読されるたびに評価されてきた。この機械は、時計や暦のための機械というようなものではなく、「蝕」のスピードまで計算するという。もっとも、これ自体が機械式の時計の発明を1400年も先取りした装置なのだが。
そんなに凄い機械を、古代ギリシャの人たちは、いったい何のために作ったのだろう? このあたりの詳細は、『アンティキテラ』(DECODING THE HEAVENS)をご覧いただくのがよいわけだが、それは、現在のコンピュータのように実利的な目的のために作られたとは、考えにくい内容である。著者らが結論づけているのは、コンピュータを作ること自体が、彼らにとって「神に近づく」ことだったのではないかというのである。
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| 学研『大人の科学マガジン』Vol.24の「4ビットマイコン」付録のコンピュータ。「ハノイの塔」など何本か書いてみたが、「光のハート」(POV)は、5バイト半(漢字2文字と2/3の情報量)のプログラムで書けてしまった。改めてコンピュータとは何かということを考えさせられませんかね? |
『アンティキテラ』を読んでいるのと並行して、ここ数週間ほどの間、学研『大人の科学マガジン』Vol.24として発売される「4ビットマイコン」の付録コンピュータをいじっていた。現在のコンピュータの直接的な先祖は、英国で1948年に完成した「BABY」だとされている。BABYと名付けられたこの機械の記憶容量は128バイトである。ところが、大人の科学の付録コンピュータは、BABYよりさらに小さい、プログラム領域が40バイト、データ領域が8バイトしかない。
漢字にして俳句(17文字)以上、短歌(31文字)未満の情報量しかないコンピュータというわけだ。それでも、一応プログラムを書いて結果を数字1桁のLEDなどで表現できる。これに比べたら、古代ギリシャのアンティキテラの機械は、むしろいまのパソコンで実行すべき精巧な天体シミュレータともいうべきものだろう。
4ビットマイコンをいじっていると、BABYでデジタルの新天地に踏み出した研究者たちの気分を、おそらくこうだったろうと感じることができる。そして、古代ギリシャでアンティキテラで世界を模倣しようとしたその製作者(アルキメデスではないかという説もある)の気持ちも分かるような気もしてくる。60年、2000年と時間をさかのぼるのは、ちょっとしたタイムトラベルのような感じではないか(4ビットマイコンとアンティキテラの機械はまるで似ていないのだが、計算しようとするピュアな心が共通しているのだ)。
それでは、いまのコンピュータは何のために作られ、使われているのだろう? 世界中の情報を整理してアクセスできるようにするというグーグルは、その先に何をめざしているのか。新検索エンジンやクラウド戦略で巻き返しをはかるマイクロソフトは、何を考えているのだろう。どこにも、そのことまでは書かれていないのだ――そんなことを考えたくなる、2つのコンピュータだった。
アンティキテラの機械から2000年経った現在の、最新のコンピュータともいえる「iPhone」についてのトークセッション『次世代モバイルは世界をどう変えるか ~iPhone利用調査+次世代モバイル徹底討論~』を開催します。
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アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。