アスキー総合研究所 > ニューズレター・フォーラム > ニューズレター > マンガを描きたいフランス人
2009年07月31日 23時18分
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| エスパス・ジャポンのマンガ教室の募集定員は1学期あたり10名。この日も熱心な授業が行われていた。 |
ジャパンエキスポは、日本のアニメやマンガが中心のイベントということで、いわゆるマンガ同人誌の即売コーナーというものがある。参加サークルは日本のコミックマーケットとは比べるべくもない、100サークルにも満たないと思える規模だが、昨年よりも参加サークル数は多いという。マンガを描きたいフランス人が増えているのだ。
一方、パリ市内にあるエスパス・ジャポン(ESPACE JAPON)は、民間による日本とフランスの文化交流を目指した施設である。ゆったりしたロビーには日本の雑誌が置かれ、地下には図書館もある。押しつけではない、いい雰囲気の文化交流を感じるのだが、日本語講座、講演会やコンサートに混じって、「マンガ教室」も開かれている。
日仏語新聞で4コママンガの連載を持ち、このエスパス・ジャポンでマンガを教えるピエール・フェラギュ氏に、この教室についてや、日本風のマンガを描こうとしている人々についてうかがった。
―― マンガ教室は、いつ始められたのですか?
ピエール・フェラギュ氏(以下フェラギュ) エスパス・ジャポンでは、料理、おりがみ、書道と、日本のいろいろな文化を取り上げていますが、日本を代表する文化としてとらえられるようになった「マンガ」の教室は、昨年の秋から始めました。
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| ピエール・フェラギュ(Pierre Ferragut)氏。1971年生まれ。1997年パリ第7大学でDEA取得。日本でフランス語教師の経験もある。2007年からエスパス・ジャポンで日本語講座・マンガ教室を担当。 |
―― どのようなコースになっているのでしょうか?
フェラギュ 2時間の授業が毎週1回。それを3カ月ですから、合計すると20時間くらいになりますね。同じ講座を、連続して3回受ける人もいます。
―― どんな人が受講されるのでしょう。プロのマンガ家を目指す人も来られているのでしょうか?
フェラギュ このマンガ教室は、もともとは子供をターゲットとして始めたものです。その関係で、プロのマンガ家を目指している人よりも、マンガに憧れて自分でも描きたいという感覚の人が中心です。もっとも、20歳に近い受講者には、将来プロのマンガ家になりたいという人もいますが。
―― パリ市内には、マンガを専門に教える学校もあると聞きました。
フェラギュ ないことはないですが、まだ新しいですからね。お金がかかることもあって、「本当に入学していいのか?」と感じている人も多いようです。また、そうした学校をやめてうちに来る人もいますよ。うちの場合には、そんなにすごいお金や時間をかけなくても、マンガを学べますからね。
―― 受講料はどのくらいですか?
フェラギュ 3カ月で270ユーロ(日本円で約3万6000円)で、これには材料費も入っています。また、今日見ていただくのは集中講義なのですが、これは食事も付いてきます。
―― 美味しそうな唐揚げ弁当が出ていましたね。
フェラギュ 食事も日本風です(笑)。
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| マンガ教室の壁面に貼られていた下書き。 |
―― 最近では、パソコンでマンガを描くことも増えていますが、紙とペンで描くことを教えていらっしゃるのですか?
フェラギュ パソコンは一切使わずに、鉛筆で下書きしてペン入れするようにしています。ペン先をたくさんもっていると、「それはどこで買ったんですか?」などと聞かれることもありますよ。
―― どこで買われたのですか?
フェラギュ 日本でたくさん買ってきたんですけれどね。
―― フランスでも、「ComicStudio」のような、マンガを描くPCソフトは多数販売されているのでしょうか? 市内のマンガ専門店には「ComicWorks」のパッケージがありました。
フェラギュ もちろん、マンガを描くソフトを使っている人もいますよ。
―― フランスのバンド・デシネの場合は、日本のマンガと同じように丸ペン、Gペンといったもので描いているんですか?
フェラギュ バンド・デシネの場合は、いろいろな人がいて、なんでもありの世界なんです。バリエーションがあったほうがいいという見方がされているのではないでしょうか? そのあたりも、日本のマンガと少し違いますね。
フェラギュ うちのマンガ教室の生徒たちの描いたものは、『PENGA』という日本風の名前をつけて、1冊の冊子にまとめています。
―― まだまだ上手いとはいえませんが(笑)、でも顔の描き方とか、完全に日本風ですね。
フェラギュ こうして見ていると、フランスのものなのに日本のマンガを読んでいるような気分になるんです。
―― 手をパタパタしている描写とかも……。
フェラギュ 絵もさることながら、ストーリーの流れなども、日本のマンガを真似ているんですね。
―― ご自身も、マンガを教えているわけなので、描いておられるわけですよね。
フェラギュ 描いていますよ。
―― どんなマンガを描かれているのですか?
フェラギュ いまは、日仏新聞の『OVNI』に「PIPO AU JAPON」という4コママンガを連載しています。
―― 日本の4コマそのままじゃないですか! なんとなくご自身に似ているというか……。
フェラギュ 好きなマンガは、『ドラゴンボール』とか。あとは手塚治虫なら、なんでも。ストーリーもいいし、絵も好きです。
―― アスキー・メディアワークスは、「萌え」系とか「アキバ系」とかに強い会社なのですが、「萌え」という言葉はご存じですか?
フェラギュ うちのマンガ教室の生徒に教えてもらいました。生徒同士の会話で出てきていたので、何だろうと聞いて教えてもらったんです。
―― 「やおい」はどうですか?
フェラギュ やおいは、前からありますねぇ。
―― 「カワイイ」は分かりますか?
フェラギュ それは分かります。カワイイという言葉は、「Mingnon」(ミニオン)と訳したりしますが、微妙に意味が違っているのですよね。
―― カワイイと萌えの違いは分かりますか? カワイイは上から下、萌えは下から上というベクトルの違いみたいなところがありますよね。
フェラギュ 実は、日本のマンガについての論文をパリ第七大学で研究していて、それをまとめるために日本に行って、2年前まですんでいたんです。論文の内容は、マンガを読むことで子供たちの考え方がどう変わるか、マンガがどんな社会的な影響をおよぼすのかといったことです。
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| (左)ジャパン・エキスポの会場の一角に設けられた同人誌即売コーナー。(右)サインをしてくれる作者。「やおい」もあれば「ギャグ」もある。 | ||
―― 日本では子供だけでなく大人もマンガを読みますよね。フランスは、まだ子供のものという感覚ですか?
フェラギュ そう言われていましたが、最近ではそうでもなくなってきています。日本のマンガで育った世代が、いまや大人ですから。近い将来には、日本と同じような状況になるのではないでしょうか? たまに、地下鉄で日本のマンガを読んでいる人を見かけることもありますよ。フランスのバンド・デシネはA4サイズだったりするので、それを電車の中で開くということはありませんでしたが、日本のマンガ本は小さいですからね。
―― これから、フランスにおける日本のマンガというのは、どうなっていくとお考えでしょうか?
フェラギュ こうしたマンガ教室から、プロのマンガ家が育つといいですねぇ。わたしの世代だと、マンガ家になりたいと親に言ったら、「やめたほうがいい」と言われたものです。でも、いまはマンガというものが認知されて、そうでもなくなってきていますからね。親についてきてもらって、マンガ教室にくる子供もいるのですよ。
―― ジャパンエキスポの同人誌のコーナーは、決して大きくはないのですが、去年より参加サークル数が増えたと聞きました。日本風のマンガを描く人は増えているんですね。
フェラギュ ますます増えると思いますよ。
―― いままでバンド・デシネを描いていた人が、日本風のマンガを描くようなパターンってあるんですか?
フェラギュ 影響されたというのはありますね。日本風のマンガをめざしている人も結構います。たとえば、『Tokyoland』(Benjamin REISS著、ISBN:978-2356480682)というフランスのマンガがあるのですが、これはフランス人が日本に渡って日本のマンガ家のアシスタントをやるというストーリーです。
―― それは、その作家自身の話なんでしょうね。
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| ジャパンエキスポで購入してきた同人誌など。日本風のマンガもあるが、私小説的なおとなしい作品が目立つ。右上の『PENGA』が、マンガ教室の生徒たちの作品集だ。 |