アスキー総合研究所 > 所長コラム > デジタルを味方につけろ!
2009年10月30日 19時11分
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| AMDが行っている「50×15」プロジェクト。2015年には、世界人口の50%がネットを使えるようになっていることを目標としている。 |
秋葉原エンタまつり2009で、「デジタルを味方につけろ! ジャパンコンテンツ」と題したシンポジウムをやらせてもらった。マイクロソフトの上代晃久氏(オンラインサービス事業部)、ビンセント・ショーティノ氏(クランチロール代表取締役)、信谷和重氏(経済産業省 商務情報政策局 メディア・コンテンツ課長)、中村伊知哉氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)の4方にパネリストになっていただき、わたしがモデレータを務めた。
パネルディスカッションに先だって、わたしから、「デジタルのいまとこれから」についてプレゼンテーションをした。ネットやデジタルに関する議論では、そのスケール感やスピード感、我々がどんな土俵の上に立っているかが基本となるからだ。
そんなわけで、「How Big Is the Internet」ともいうべきデータを並べてみた。世界のネット人口は17億人、世界中のサーバーはアクティブなものが7000万、検索エンジンによって索引化されたページの数が450億(プレゼンでは45億と桁を間違えて説明してしまいました。推定でグーグルが160億ページ、ヤフーが450億ページ、ライブサーチは数億という議論があります)。そして、重要なことは、このネットの規模がいまも猛烈な勢いで拡大していることだ。
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| 世界のサーバ台数の推移。合計すると、約7000万台になる。(Totals for Active Servers Across All Domains June 2000 - September 2009 ) |
ウェブページが増えるだけでは、ビジネスにならないという人もいると思う。だが、ネット人口は2015年には現在の1.5倍になる。AMDが行っている「50×15」プロジェクトは、2015年に世界人口の50%がネットを使えていることを目標としている。「デジタルデバイド」とは、単にネットを使える人と使えない人のギャップのことではなく、使えない人が経済的に貧しくなることを言う。その結果、さまざまな社会問題や国際問題や人道問題を引き起こす。それを解消するためには、ネットの利用者を増やす必要があるというものだ。
幸か不幸か、この「ネット人口を増やす」という活動は、グーグルなどの典型的なネット企業がいちばんやりたいことと重なっている。そして、成功しているあらゆるネット企業は、このネット人口増加という巨大な潮流に乗れているだけだといっても、大げさではない。逆に乗れていない場合には、自分たちのお客やリソースが、どんどんネットに取られることになるわけだ。
さて、こうした話のためにプレゼンテーション資料を作っているときに、わたしの席のまわりでちょっとした議論があった。グーグル インサイトで、「manga」と入力すると、フィリピン、インドネシア、マレーシア、マダガスカル、ペルーなどといった国々の名前が並ぶ。グーグル インサイトは、キーワードの人気度を示す指標なので、これらの国で「manga」という単語の人気が高いとういことを意味する。注意しなければいけないのは、「manga」という単語での検索の総量による国別ランキングではなく、その国で「manga」という言葉の人気が高い順のランキングである点だということなのだが。
東アジア一帯で日本のマンガが翻訳出版されていることを考えると、フィリピンやインドネシア、マレーシアなどで「manga」という単語が検索されるのはわかる。しかも、これらの国々ではまだネットを使える人たちが学生など若い層の比率が高いことから「manga」のワードパワーが大きいことも想像の範囲だろう。しかし、わからないのは4位のマダガスカルや10位のガボンである。マダガスカルは、アフリカ大陸の南東に位置する、シーラカンスで有名な島国なのはご存じのとおり。ガボンは、中部アフリカにあって、赤道ギニア、カメルーン、コンゴと隣接した人口150万人の小国である。
これらの国から「manga」という単語の検索がさかんに行われているというわけで、「マダガスカルには<manga>という地名があるんですよぉ」とか、「ガボンには<manga>という芸能人がいるんですよぉ」というような議論になったわけだ。ところが、グーグル インサイトでは、その単語(いまの場合「manga」)と一緒に検索された関連語についても、そのランキングが出てくる。それによると、「naruto」などといった作品名や「sub」など配信関連の単語が並んで出てくる。
そこで思い出したのは、今年7月、JAPAN EXPOでパリを訪問したときに起きたちょっとした出来事だ。わたしと、ジャーナリストのエチエンヌ・バラール氏、東京MXテレビの粟野氏、弊社の『電撃大王』の編集2人も一緒だったのだが、地下鉄の中で見知らぬアフリカ人から声をかけられた。わたしに向かって「日本人ですか?」と声をかけてきたのだ。
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| 経産省がJAPAN EXPOの会場で行ったアンケート結果。ジャパンコンテンツの興味ジャンルは、マンガ、アニメ、音楽の順となっている。(信谷氏のプレゼンテーションより)。 |
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| ジャパンコンテンツの認知経路については、Webでの認知が圧倒的に多いことがわかる(信谷氏のプレゼンテーションより)。 |
ちょっと驚いていると、彼は、自分がマダガスカルから来たミュージシャンで、日本のマンガが好きで日本語を勉強していると説明した。「ワンピース」や「ドラゴンボール」のファンだというのだ。そこで、「マダガスカルでは日本のマンガは売っているのか?」と聞くと、「売っていない」という。つまり、グーグル インサイトでの検索結果がここで一致する。彼は、もっぱらネットでマンガを読んでいるのではないだろうか? 日本のマンガ、アニメといったコンテンツを海外で最も消費している国のひとつはフランスで、マダガスカルとガボンに関して共通して言えるのは、フランス語圏だということもあるのだが。
かつて日本のマンガやアニメが海外に浸透するには、最初にテレビアニメが放送されて、それが起爆剤になることが多かった。フランスがそうだったし、アジアの国々でも、マンガの海賊版の存在もあったが、アニメのパンチ力こそ普及の原動力だった。まずアニメが広がるのは、マンガよりもリテラシーを必要としないからだろう。その後、アニメの原作であるマンガの出版がはじまり、やがて日本のコンテンツ文化がさまざまな形で浸透する。しかし、いまはアニメからネットへ行き、そこからマンガというパスが出来てきている。それどころか、まずネットがあり、そこからアニメやマンガに流れている。ネットが、ファーストコンタクトになってきているのだ。
信谷和重氏に紹介いただいた、経産省がJAPAN EXPOの会場で行ったアンケート結果でも、ジャパンコンテンツの普及において、ネットの占める役割は大きかった。ジャパンコンテンツの認知経路は、ウェブが92.9%と圧倒的。次いで新聞・雑誌の31.4%、テレビの28.2%となる。JAPAN EXPOは、フランス語圏の来場者が80%を占めるので、ほぼフランス人へのアンケートといってもよい。興味ジャンルは、マンガが68.5%、アニメが50.7%、音楽が45.1%、ゲームが40.4%と、マンガの比率が高い。
つまり、ジャパンコンテンツが浸透して、マーケットとして成熟する過程において、ネットが重要な役割を果たすと考えられる。事実、フランスのマンガ専門店で聞いた話では、BL(ボーイズ ラブ)はネットで話題になり、後から出版が来たそうだ。経産省のアンケート結果では、ジャパンコンテンツに対する支出では、約50%の人が1カ月に10~49.9ユーロ(約1350円~約6800円)使っている。50ユーロ以上使う人も、20%近くいる。ネットがあって、はじめてこうしたジャパンコンテンツ消費の構造が成立していると考えられる。
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| 半数以上が、ジャパンコンテンツに1カ月10ユーロ(約1350円)以上支出している。(信谷氏のプレゼンテーションより) |
ジャパンコンテンツへのファーストコンタクトがネットになってきたということは、フェーズが変わったということだ。彼らは、ネットという自在眼鏡を持つことによって、平均的な日本人より、ジャパンコンテンツを手に取るように見ている。「ASCII Research Interview」でも登場してもらった、米国の有料アニメ配信サイト「クランチロール」などは、それを象徴する例のひとつだろう。ネットという地平では、クラウドコンピューティングがこれから何を起こすか? フェイスブックのようなSNSやソーシャルゲームがどうコンテンツと協調してくるか? といった、よりダイナミックな変化の時代を迎えつつある。そして、2015年にネット人口35億人へと向かう巨大な波の上に乗っているということを認識すべきだ。
まさに「デジタルを味方につけろ!」というべき状況なのである。
アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。