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「ASCII Research Interview」 Vol.5 明治大学国際日本学部 森川 嘉一郎准教授

「米沢嘉博記念図書館」誕生の経緯と未来

聞き手=遠藤 諭 構成=村山剛史 撮影=小林 伸

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2009年11月13日 12時00分

column「米ヤンの本棚を愛でる会」

「米沢嘉博の蔵書を愛でる会」

 米沢氏の自宅から蔵書の搬出が始まったというので、旧知の人たちを集めて行われた「米ヤンの本棚を愛でる会」の写真。左上は、夫人の英子さんのほか、アスキー総研の遠藤 諭所長も親しく付き合っていた知人たち(吾妻ひでお関連)。米沢氏は阿島俊名で、『吾妻ひでおに花束を』なる同人誌を'79年に編集・発行。また、カストリ雑誌や風俗誌などの造詣も深く、『別冊太陽/古書遊覧/珍本/奇書/稀覯本/ト本』(平凡社刊)の構成なども手がけていた。『東京クーデター計画草案』など、蔵書の背表紙を見ているだけでも、思わず手を出したくなる気になる書名のものが少なくない。(撮影:遠藤諭)

―― 米沢さんのコレクションは何冊くらいあるのでしょうか?

森川 現在わかっているだけで14万冊以上あるのですが、その後ダンボール1000箱分の蔵書が新たに見つかりましたので、未だ全貌は解明できていません。

―― 個人の蔵書が14万冊以上というのは、すごいですよね。

森川 ご自身の購入分の他にも、知人や友人の方々が『米沢さんならもらってくれるだろう』と、マンガを箱単位で送ってくる状態だったようです。“自宅がマンガでいっぱいになったら引っ越して、元の家は倉庫にしていく”ということを繰り返されていたそうで、これを指して“ヤドカリ生活”とも言われていました。結果として、その蔵書はこの7階立ての建物でも収蔵しきれない規模になっています。この図書館は閉架式なので、館内に収蔵しきれない分は近隣の建物に書架を設置して、請求されたらスタッフが取りに行くという展開も検討しています。

―― オープン時には7万冊が閲覧可能ということですが、この図書館をどういった人たちに使っていただきたいですか。

2F閲覧スペース
2階は計30席の閲覧室となっており、一部開架書庫も設置。蔵書目録はOPAC(オンライン蔵書目録)に対応するので、ネットからの検索も可能だ。将来的には蔵書の電子化も視野に入れているが、現時点では未定とのこと。

森川 閲覧可能資料は、開館後もどんどん増えていきます。まずはマンガを研究されている方々に、極力役立つようにしていきたいと考えています。国会図書館でも欠本していて現物に当たれなかったタイプの本が、こちらにはそれなりの量で存在していますから、それらを存分に使っていただければと思います。国内に限らず、海外の研究者にも対応していきたいですね。また、明治大学付属の図書館ではありますが、一般の方でも会員登録することでご利用いただける形にしていきます。一般の方々については有料とさせていただき、料金は1日のお試しであれば300円、1カ月間のパスが2000円、年間パスが6000円になります。

―― 法人会員を募ったりすると、どっと押し寄せるかもしれませんね。イベントなどはどこで行うのですか?

森川 講演会など、広い会場を必要とするイベントの場合は、学内のホールなどを使います。例えば、11月7日には開設記念シンポジウムを、明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1階のリバティホールで行いました。

コミケ同人誌
コミックマーケット準備会が見本誌として集めた同人誌も、直近一回分を一時的に収蔵し、閲覧可能にする予定。ただし、同人誌は会場エリアごとに箱詰めされた状態のため、閲覧を希望する場合は「1日目“あ01A”、サークル名××の同人誌」というような頼み方になると思われる。事実上、コミケカタログが目録代わりというわけだ。

―― 同人誌の扱いはどのように?

森川 同人誌は目録化に手間がかかるため、そのほとんどは来年1月からの閲覧になります。ちなみに、開館時の蔵書の構成はマンガ雑誌が最も多く、全体の約1/2を占めています。保存状態は良好ですね。マンガ単行本は1/4程度です。残りは書籍のほか、同人誌、そしてカストリ雑誌などの風俗誌になります。とりわけ、この分野の雑誌の集積度は、神保町の専門書店を探しても他にないと思います。

―― 最後に。森川さんがこの米沢嘉博記念図書館、そしてアーカイブ施設の設立にここまで尽力してきたモチベーションは、何だったのでしょうか?

森川 大勢の協力を得てつくった「おたく」展の責任者として、展示物を保存すべき立場に立たされたことがきっかけです。そのような立場に立っていなかったら、この分野の研究者として「マンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ施設をつくるべきだ」と、各所でコメントしたりはしたかもしれませんが、実現に向けて動き回ったりはしなかったと思います。それはわたしより社会的な力のある、もっと上の世代がやるべきことだと。ただ、「おたく」展はあくまできっかけであって、米沢さんや内記さんに計画に関わっていただくようになってからは、その蔵書の保存が動機の主体になっています。


第1回コミックマーケット開催のお知らせ
図書館1階に展示される、“第1回コミックマーケット開催のお知らせ”の文案が記された米沢氏のノート。「そこでそう云う各種グループ間の情報交換や同人誌販売の場を持とうと云う試み~(中略)~そう云う場を定期的に開く事により、より一層の場の拡大を計ろうと云う意図の下にこの企みはなされました」(原文ママ)。



 取材後の10月22日、インタビュー中では「アーカイブ施設」とも呼んでいた「東京国際マンガ図書館(仮称)」の開設が正式に発表された。2014年度の設立を目指すという。場所は森川氏のインタビュー中にあるとおり、御茶ノ水と神保町にほど近い、明大駿河台キャンパスの猿楽町地区内を予定地としている。そこで200万点以上を資料を閲覧可能にすると発表されているが、これは破格といってよい。明治以来の書物を収蔵する国立国会図書館(本館)の蔵書がおよそ600万冊と言われていることを考えれば、その規模の大きさがわかるだろう。また、日本のポップカルチャーの歴史を広範に眺めることができるように、マンガのほかにもゲーム、アニメ、ライトノベルなど多彩なコンテンツが収蔵される予定だ。そして200万点のなかには、30年以上に渡ってコミックマーケット準備会が保管してきた同人誌も含まれる。

 森川氏によると、「東京国際マンガ図書館という名前を付けるにあたって、施設内に収蔵するモノをくくる言葉は何かと考えると、メディア芸術、コンテンツ、おたくなどいくつかの単語が浮かんではくるのですが、どれも一長一短があります。そこで、仮の状態としてマンガ図書館という名前を付けています」とのことなので、正式オープン時には改名される可能性もある。そして、米沢嘉博記念図書館は、その中にいくらか形を変えながら存続されることになるようだ。

 フランスや台湾をはじめとして、毎年、数千冊もの日本のコミックが、各国語に翻訳されて出版されている。いまや日本を代表するカルチャーのひとつとなっているのが、「マンガ」という表現手段である。しかも、このマンガというものは、それを掲載するコミックやマンガ雑誌を中心にして、アニメや玩具や子供文化、さらには世代そのものにも大きな影響を与えてきた。

 そして、コミックマーケットのような“マンガ同人誌即売会”という独特の文化が、そうした日本の商業的なマンガやアニメ、文学や映画にいたる表現を育むエンジンとして作用してきた。コミックマーケットが、いまのような形で継続して来られたのは、米沢氏を知る人なら誰もが認める、彼の穏和な人柄のなせる技だった。一方で米沢氏には、「黒い」とでも表現すべきマンガに隣接する大衆文化を、ずっと見つめてきた研究者としての横顔もある。そうした人物の蔵書を収蔵したものが、マンガの歴史を記録する図書館となったことは、象徴的なことなのかもしれない。

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