アスキー総合研究所 > 所長コラム > Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない
2010年01月05日 19時41分
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いまネットの世界で注目されているサービスが、「Twitter」である。2006年に開始されたサービスが、なぜここに来てヒットしているのか? わたしは、2007年の春にアカウントをとったが、少し触っただけで放っておいたままだった。実はそういう人は少なくないらしく、いま頃になって、そのメディアとしての可能性が再発見されている感じだ。Twitterの広がり自体が、ゾクゾクするような胸騒ぎのする出来事になっている。
ネットの世界の新しい動きに敏感なユーザーが積極的に使い、優れた本も何冊も書かれている。Twitterの中でも、自分たちがいま使っているサービス(Twitterや関連ツール)に関する話題は少なくない。2009年までの会員数の伸びから推定して、日本での利用者数は、400万人を超える盛り上がりになっているものと思われる。仮に、これが一過性のブームで終わるとしても、Twitterが内包していたメカニズムのいくつかは、何らかの形で残るはずだ。要するに、1つのトレンドを作ったと思える。
Twitterには、いくつかの際だっだ特徴がある。たえとば、ミニブログとは言われるものの140文字しか書けない。「フォロー」という仕組みによって人のネットワークができる。それによって、「タイムライン」という自分のトップページが変わる。「ハッシュタグ」によって、トピックを整理できる(これはTwitter自身が用意した機能ではないところが注目すべき点なのだが)。また、第三者がTwitterに関連するサービスをいくつも立ち上げている点も大きな特長だ。
それらがどれくらいの威力を持っているかは、実は、アスキー総研自身が経験している。2009年8月に実施して販売を開始した『iPhone利用実態調査』というレポートは、販売開始直後に1件売れたあとは売れなかった。ところが、1週間後からほぼ毎日売れるようになったのだ。調べてみると、iPhone関連のコミュニティにいる1人の「つぶやき」がきっかけで、情報が広く伝播していったことがわかった。
そんなわけで、Twitterは「コミュニケーション革命」と見るのが一般的だろう。アスキー総研でも、2009年12月に『Twitter利用実態調査』というものを実施した。11月に実施した『MCS(メディア&コンテンツサーベイ)』の約1万人の集計結果から、Twitterに関連する要素を抽出。より踏み込んだTwitterのユーザー動向を約300人を対象に実施して、これらのデータを照合した。そして、12月26日に「『Twitter利用実態調査』結果のお知らせ」というリリースを出した。
詳しい内容は、同リリースをご覧になっていただくのが早いが、いま、Twitterを利用しているユーザーの姿を、さまざまな角度から分析できる。また、1月中旬に発売予定の『Twitter利用実態調査詳細レポート』では、Twitterと他サービスの利用者の間で、プロフィールや接触媒体、ネット上での消費傾向の違いなどについて詳しく分析する予定である。Twitterの自社業務での活用を検討している場合には、有効な基礎資料となるはず。
さて、そんなふうにTwitterを見てきたわけだが、1つ重要なポイントに気づいていた。1980年代のパソコン通信や草の根通信、UNIXのネットワーク、そして、デジタル上のコミュニケーションを見てきた我々としては、「おやっ?」と思えることがあった。Twitterでは、「Reply」(返事)、「Retweet」(そのまま再度つぶやく)される過程で、情報の中に、ノイズが入り込んでいくのだ。
たとえば、わたしが、『Twitter利用実態調査』のリリースを出したことをつぶやいた結果どうなったか? 12月28日に、わたしがつぶやいたのは、
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というものである。これが、100個以上のRTやReplyを経るうちに、コメントが追加される、質問や疑問、ケチもつく。簡単に整理してみると、次のようなことが起きている。
(1)伝聞
そのままRetweet(RT)される。ただし、誰がRTしたかがTwitter IDの形で埋め込まれるので、属人性が加わるともいえる。
(2)批評
「やっぱり平均年齢高いなw」など感想が加えられる。ユーザーとの意識の差という情報が付加されたともいえる。
(3)増幅
「あはは、納得」など、データの説得力が強調される。わかりやすく言い換えてくれるケースもある。
(4)付加
好きなTV番組は『タモリ倶楽部』など、リリースの中の注目ポイントなどの情報が付加される。
(5)展開
情報を伝聞しない単なるReplyから、あらたなTwitterに関する議論ももちろん始まる。
以上は、情報が広がるときにどんなノイズが加わったか、あるいは損なわれたかだけを書いているが、問題点を指摘するなど、抑制的に働くコメントもある。あるいは、
「意外に高年齢」
というコメントに対して、「年齢は男女でもかなりのズレがあるようです」とReplyしてやると、これが新たにRTされたりする。今回は、それほどにはならなかったが、発信元が、再度つぶやくことで議論や第二波の伝聞が始まることがある。
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| アスキー総研『Twitter利用実態調査』より、年代別の利用率。20代が最も多く利用しており、平均年齢は35.7歳。 |
100件以上のRTを経た頃に、元のわたしのつぶやきの中に含まれていた文字列で残っていたのは、なんと「Twitter利用実態調査」という部分だけだった。これだけ見ると、元の情報の20%以下しか残っていないのだから、相当な情報劣化に見える。
しかし、これは情報が壊れたというのではなく、有用な情報のネットワークが生まれたというほうが正しい。
いままでのメディアは、発信された情報をそのまま伝えることが重要視されてきた。加工されたり、演出されたり、選択してある部分だけを切り出して伝えることはあっても、それは元の情報を伝えようと努力した結果だったと思う。デジタルに関していえば、「情報を劣化せずに伝えることができる」というのが大きな売りになっていたはずである。コンピュータ・ネットワークの世界でも、ながらくデータが損なわれることなく伝えられることが重要だった。
ところが、Twitterでは、1回のつぶやきは140文字までという制限(日本では漢字コードで140文字だが、英語ではアルファベットで140文字なので、さらに情報量は少なくなる)の中で、「Retweet」や「Reply」されるたびに、どんどんノイズが加わり、情報は尻切れトンボになっても伝わっていく。
しかし、Twitterでの発言は、まさにクラウド上に置かれている。ここで行われたのは、情報劣化した最後のつぶやきを求めるプロセスではなく、新しい知識情報処理というべきものなのだ。もちろん、このようにネット上の発言が引用され、コメントされ、あるいはノイズが加えられるようなことは、いままでもあった。ブログメディアやはてなブックマーク、2ちゃんねるやニコニコ動画がそうだといえる。しかし、どうにもTwitterには、それらとは少し違うものがある。
それは、「ノイズ」の持つパワーを、意図していないとしても、積極的に利用してしまっているということかもしれない。Twitterのような、人間のネットワークで伝聞されていく過程は、いままでのブログメディアや掲示板などにはなかったものだ。これが、何か別のものを生み出すような予感がする。つまり、わたしには、Twitterは、「コミュニケーション革命」というよりも、「コンピューティング革命」に思えるのだ。何か具体的な問題を解く、新しい手段への入り口のように見える(botが重要な役割を果たす可能性がある)。
たまたま、エネルギー効率の話から入ったが、コンピュータの世界も、様変わりしていく可能性がある。大量生産・大量消費を、ネットワークの上に移設しただけのシステムは、いずれ姿を変えざるをえなくなる。グリーンITというような話ではない。もちろん、省電力は当面の間キーワードで、2010年は、「スマートブック」(スマートフォンとネットブックの中間的な端末)が注目されるという意見もある。しかし、そうではなくてさまざまなコンピュータ・ソフトウェアというものの概念すら変えてしまうようなことが起こるような気がするのだ。そのとき、Twitterのような「もうひとつのクラウド」ともいえるものと、「ノイズ」がポイントになる。
そんなことを感じる、ちょっと刺激に満ちた2010年の幕開けとなりました。
アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。