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「ASCII Research Report」

“ビンボーハッピー”は日本を幸せにするか? ―MEDIVERSEキックオフイベント

文=中西祥智

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2010年12月16日 18時20分


 12月14日、東京・青山にて、『2011年、既存メディアはFacebookで儲かるか? それとも崩壊か!? MEDIVERSEキックオフイベント』が開催された。

増井教授
MEDIVERSE カリキュラムのチーフディレクター、慶應義塾大学環境情報学部の増井俊之教授

 主催はMEDIVERSE(メディバース。運営団体としては、一般社団法人メディア事業開発会議)。同イベントは、MEDIVERSEが2011年2月から展開する「次世代メディアビジネスプログラム」のキックオフとして開催されたものだ。次世代メディアビジネスプログラムは、事業会社の経営層・事業部長クラスを対象とし、ネットとメディアを活用して次世代のビジネスモデルを構築でき、新しい方向性を模索できる人材の育成を目的としたカリキュラムとなる。

 カリキュラムのチーフディレクターを務める慶應義塾大学環境情報学部の増井俊之教授は、MEDIVERSEの目指すところとして

・本質を見極めること
・そのうえでトレンドを理解すること

を強調した。

増井氏 「かつては、電車に乗るときには切符を買っていた。音楽を聴くために、家にステレオコンポを持っていた。だが、それらは本質ではない。移動すること、音楽を聴くことが本質だ。切符がICカードに、ステレポコンポが携帯型オーディオに変わったように、本質を改善するトレンドはいつか必ずブレイクする。本質を見極め、トレンドを理解することを、MEDIVERSEではやっていきたい」

折り紙の習熟曲線
増井氏が例として掲げた、折り紙の習熟曲線。同じ折り紙を15万回折り続けると、最初は800秒くらいかかっていたのが、15秒で折れるようになる。だが、実際にはそこまでしなくとも、例えば100回試した段階で、その先の習熟曲線のトレンドは見えるだろう。

Facebookは日本では
やはり難しい?

 増井氏の趣旨説明あと、3組のトークセッションが行われた。最初のセッションはソーシャルメディアについて。登壇者は、株式会社クォンタムアイディの代表取締役で、関心空間のファウンダーでもある前田邦宏氏と、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社の代表取締役 徳力基彦氏。

前田邦宏氏
株式会社クォンタムアイディ代表取締役 前田邦宏氏

 イベントのタイトルにもあるFacebookについて、前田氏は、日本では期待値が大きいが、現状はまだ規模が小さすぎることを説明した。日本のユーザー数は180万人だが、アメリカでは1億4000万人を超えている。企業のファンページの登録者数でも、コカ・コーラが220万人に対して、ユニクロでも8000人弱に過ぎないという。

前田氏 「あまりに数が違うため、広告単価の規模もまったく異なる。日本で流行るかどうかという話だが、実名のネットワークであることにベネフィットがあるのか。そういう視点では、他国と同じようにはいかないのではないか。また、Facebookがアメリカでブレイクした理由として、ゲームメーカーZyngaによるソーシャルゲームの存在が大きい(アクティブユーザーは2億人とも)が、一方で日本ではすでにソーシャルゲームが充実しており、Facebookがゲームで割り込んでくるのは難しいだろう」

前田氏と徳力氏
ソーシャルメディアについて語る前田氏(左)と徳力氏(右)。
徳力基彦氏
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社代表取締役 徳力基彦氏

 徳力氏も、FacebookはいわばmixiとGREEとモバゲータウンを足した存在だと指摘。このため、アメリカ人はほぼFacebookだけで事足りるが、日本の場合はすでにmixi、Twitter、GREE、モバゲーがあって、さらにFacebookも来るかもしれないという状況であり、アメリカのようにFacebookですべてがつながるわけではない。「アメリカを先進事例として、日本も今後そうなると考えると、それは違うのではないか」という疑問を呈した。

 そして、アメリカの大学生はメールではなくまずFacebookを見るなど、メールのポジションがFacebookに移りつつあることなどを例に挙げ、「重要な点は、ユーザーがコミュニケーションの場所としてどこを選ぶか」ということだと語った。


スマートフォンが
ビンボーをハッピーにする!

 続いてのセッションはスマートフォンについて。登壇者は慶應義塾大学の増井俊之教授と、アスキー総合研究所の遠藤 諭所長。

 遠藤所長は、リーマンショック以来最大のトレンドは“貧困”だと分析。日本でも、モノを買わない、クルマはいらない、酒は飲まない、デートもしないなど、嫌消費ということが言われていたり、『ほしがらない若者たち』(日経プレミアシリーズ 山岡 拓/著)という現象があるが、一方で彼らは不幸ではなく、意外に幸せであることから、これを“ビンボーハッピー”と名付けた。

ビンボーハッピー
モノを買わない、クルマはいらない、デートもしないが、実は幸せ。

 そのビンボーハッピーには“7つ道具”があり、ソーシャルとスマートフォンは、ここで密接に関係しているという。

遠藤所長
株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 遠藤 諭所長

遠藤所長 「世界での携帯電話の出荷台数では、いま、約20%がスマートフォンになっている。日本でも、iPhoneはもはや普通の商品になっており、そしてAndroid端末も、企業のエグゼクティブ層やIT系の人たちから広がりはじめている。スマートフォンとソーシャルによって、飲み会に行かなくても友人関係を維持できるし、グルーポンで出費を抑えることもできる。つまり、ビンボーハッピーを支えている」

 これに増井氏は、テレビもそもそも“ビンボーハッピー”のためのシステムであり、海外旅行に行けないから旅行番組で満足したり、コンサートに行けないから歌番組を見てきたことを考えると、スマートフォンも(かつてのテレビのような)大きなトレンドに乗っているのだろうと応じた。

 なお、遠藤所長はiPhone、Androidとも、開発のための、あるいはビジネスのプラットフォームとして、どちらもApple、Googleの意向に左右されるという意味で“専制君主的”であるという認識を提示。

 これに増井氏は、iPhoneについては同意するが、Androidは、はるか源流にあるUNIX由来のオープンさがあり、「下々の開発者でもなんとでも変えられる」ことから、専制君主的とは言えないのではないかと答えた。


テレビの専制君主も
GoogleとAppleになるか?

 そして、最後のセッションは、Google TVとApple TVについて。情報通信総合研究所の志村一隆氏と、スタイル株式会社の代表取締役 竹田 茂氏が登壇。

志村一隆氏
情報通信総合研究所 志村一隆氏

 志村氏によると、アメリカでは大手テレビネットワークが動画配信サービス「Hulu」で、放送の翌日にネット配信することをやっているが、広告単価は同じコンテンツでもテレビ放送なら10万ドルなのが、Huluだとわずか35ドル。これまでは高単価でビジネスをやっていたのが、ネットではそれができなくなると指摘。竹田氏も、テレビCMの制作費も下がっており、みんなが“ビンボー”になるスパイラルなのかもしれないと語った。

 志村氏は、プレミアムなコンテンツを出す場所として、いまのところ一番良いのはAppleTVだと見ている。Apple TVは適度にクローズドな環境で、ユーザーはお金も払ってくれるからだ。ただ、現状のApple TVは外付けのSTBだが、Google TV同様いずれはテレビ側に内蔵されるようになるであろうこと、そしてApple TVはコンテンツ系、Google TVは広告系の、それぞれ“専制君主”的な存在になるだろうと予測。現状のGoogle TVは大手テレビネットワークから嫌悪されているが、この状況はすぐに変わるだろうと語る。

志村氏 「アメリカの電気店に行くと、普通にGoogle TVが販売されていて、しかも安い。現在のところ、3大ネットワークはコンテンツを提供していないが、これはよくあるテクノロジーとハリウッドの争いと同じだ。最初はプレッシャーをかけるけれど、水面下では交渉し、後日配信権を設定して商売するかたちだろう。来夏には、Google TVでHuluが見られるようになるのではないか」

ネット対応STB
Google TV前夜にもネットにつながるSTBは多数あり、アメリカではもはや当たり前の存在になっている。
竹田 茂氏
スタイル株式会社代表取締役 竹田 茂氏

 もっとも、Google TVだけでなく、サムスンやLGもネットTVを展開しており、ネット検索やテレビ画面上のアプリ展開も、アメリカでいま販売されているテレビでは普通の話になっているという。

 一方で、Google TVがこれから流行るという志村氏の考えに対し、竹田氏は「おそらく流行らない。ユーザーに、アナタは何もしなくていいというサービスのほうが良くて、番組を検索して探すなど、アクティブに操作しなければいけないのは面倒だ」と回答。YouTubeも始めた「Leanback」(YouTube側で選んだ動画を連続して再生するサービス)のようなものが理想だと語った。




 3つのセッションを終えて、増井氏は最後に、MEDIVERSEで、メディア的なビジネスの立ち上げをサポートする、あるいは包括的に勉強できる場を提供し、そして問題意識を共有する参加者によるコミュニティを作っていきたいという抱負を語った。

 MEDIVERSEのカリキュラムは、座学やレポート、ワークショップ、ディスカッションなど、多様な形態で構成され、単なるメディア議論や技術研究ではない、実践的なものとなるという。今後の活動の詳細については、公式サイトに随時掲載していく予定だ。


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