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「ASCII Research Interview」 Vol.10

電子出版はまだイノベーションの前段階 ―MEDIVERSE座談会(2)

文=中西祥智

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2011年01月21日 14時15分

第1回、第3回はこちら。
「Facebookと電子出版のこれからをどう見るべきか? ―MEDIVERSE座談会(1)」
「メディアで成功する普遍的な原理とは? ―MEDIVERSE座談会(3)」


紙のインターフェイスを
そのまま真似ていいのか?

竹田  前回の、いまの新聞社や出版社はどうしたら生き延びられるのかという話に繋がるけれど、たとえば新聞の訃報記事って、すごくコストがかかっています。デリケートな内容なので、決して間違ってはいけないから。で、問題なのは、そういうコストを今後は誰が負担するのだろうという部分です。ソーシャルメディアで伝わるニュースにしたって、元ネタは新聞社のニュースサイトだったりするわけで。

 つまり、ソーシャルメディアにしろニュースサイトにしろ、ニュースを読んでるって人はタダで読んでるわけですよ。新聞社側が、ポータルなどに安く卸しすぎたという考え方もあるかもしれませんが。

遠藤 でも、どこかがこの構造をやめようとしても、他がやってしまえばあまり影響がありません。ブログメディアもあるわけで。

竹田  新聞社の人件費が高すぎるとかいう側面も、もちろんあるかもしれません。でも、何かしらのコストがかかってるものを無料で読めるという状態が、いつまでも続くとは思えない。

 出版物って、よくできたサービスだと思うんですね。(本を取り出して)たとえば、いまここまで読んだ、もう半分読んだとか、紙の厚さでわかりやすい。こういうのをサービスと感じることもないかもしれない。でも、よくよく考えてみると、これってサービスの塊なんですよ。

 これと同様のものを電子書籍に求めると、とてもコストが合わないんじゃないかと。よくあるインターフェースは、紙をめくる挙動を真似しようとしているものばかりで、紙を電子にするときに、どういうふうにすべきかって議論が少ない。


イノベーションが起きるには
そのための素地が育たなければ

増井 皆それを苦労して開発してるんですよ。Kindleにしたって、どこまで読んだかはわかる。使いやすいかは別にして。ただ、皆が色々試行錯誤してる状態なんです。

竹田  だから、紙でそういう機能を提供できているからって、電子でもそうしなきゃって、なんでそうなるんだろうということです。日本の出版社は、そのことを本当に考えてるんですかね?

増井 Kindleにしか出来ないこともあるわけです。検索とか。

竹田 そう。それをもっと良くしようとか、そういうこと。

慶應増井さん
慶應義塾大学 増井俊之教授

増井 表計算ソフトを例にしますね。誰もがPCを使うようになって、それで「これで計算ができるといいな」って考え始めて、あるとき表計算ソフトを作る人間が現れたと。

遠藤 あるときポコッと天才が作ったものじゃないんですかね?

増井 ハーバード・ビジネススクールで勉強してた天才が、突然「VisiCalc」(最初期のPC向け表計算ソフト)を発明したわけじゃないんですよ。計算機で博士号を取った人が、たまたまビジネススクールで勉強していたときに表計算のアイデアを思いついたというもので、思いつくバックグラウンドがあったんです。

 そして、当時はちょうどPCを家計簿とか会計処理とかに使えたらいいなというみんなの気分が高まっている時期で、それでブレイクしたわけです。

 電子書籍にしたって、いまは「電子書籍があるらしい」と言っているに過ぎない段階なんですよ。そこであるときに良いものが生まれて、どっとブレイクスルーが起きる可能性があります。

 つまり、これからなんですよ。 ある程度の素地があって、初めてイノベーションは起きるんですよ。

竹田  やっぱり、電子出版って言葉が良くないんじゃない?

増井 それはそう。

遠藤 アスキー総研でTwitterのセミナーを何度かやっていて、いろいろな立場の第一人者と言える方々に来ていただいたのですが、モノを直接宣伝することについては、Twitterが効果的かどうかは議論だという話になったことがあります。

 テーブルマーク(カトキチ)の末広さん(※現在は丸亀製麺へ移籍)がおっしゃったことが印象的で、自分たちは「メディア」を持っていないのでTwitterを使っているんだと。出版社にいる人は、自分たちがメディアであることを忘れているようなところがありますよね。何かを人々に伝えるには、えらいコストと労力がかかる。これまでは広報誌とかペイドパブしか作れなかった企業が、いま、出版社のようにメディアを持てるようになった。

 この解釈は、当たり前だろうと言われそうだけど、実に鋭いと思いました。しかも、お金もかからない。これなんかは、増井さんの言う電子出版に近いところもあるんじゃないですか?

増井 そうですね。そういう意味では、これから展開していくワークショップは、たとえば一般企業の社内報を書いているような人が、「あ、自分はメディアを作ってるんだ」って気付いて聞きにくるとかがあっていいと思います。

竹田  社内報を書いている人が切実かどうかは置いておいて、いまとっても切実なのは、インターネットに「自分の領域を侵食されているんじゃないか」と危機感を抱いてる人ですよ。

 なんとかしなきゃいけないのはわかってるんだけれど、上の経営陣はよくわかっていないとか、下の優秀な奴はmixiなどネット系に行っちゃったとかね。新しい電子出版をやっていくにあたって、それを背負う人材がいなくなってきてるんじゃないかと。そこに、我々が何らかのヒントを提供できるんじゃないかと思うんです。

――第3回に続く


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