アスキー総合研究所 >  所長コラム > 「麦わらの一味」とゲーミフィケーション

【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.70

「麦わらの一味」とゲーミフィケーション

  • 最新情報を購読
  • はてなブックマークに登録
  • del.icio.usに登録
  • livedoorクリップに登録
  • Buzzurlに登録
  • StumbleUponに登録
  • Google Bookmarksに登録
  • Facebookでシェア
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • お気に入りに登録

2011年09月26日 14時00分

ゴムゴムの銃


 『広告』(博報堂)2011年10月号の特集は、「新たな未来を生きていくための物語論」というものだ。その中には、人気マンガ『ONE PIECE』(ワンピース)の話も出てくる。中村文則×幅允孝×尾原史和(敬称略)のみなさんの「ぼくたちの今日は『ONE PIECE』でできている!」という鼎談のほか、アスキー総研でこの作品の読者層を分析した結果も掲載していただいている。

 『ONE PIECE』は、尾田栄一郎による週刊少年ジャンプ連載の作品で、コミックスの累計発行部数が約2億4000万冊にもなる。この夏は、ストーリーの折り返し点だという話もあり、とくにさまざまな形で露出していた。アニメやゲームにもなっているが、なんといってもコミックスの存在感が大きい(日本の書籍初版発行部数の記録を毎回塗り換えている)。

 あるコンテンツ業界関係者の方が指摘されていた読者層は、“郊外”、“街道沿いの飲食”、“服飾”や“コンテンツ”の大型チェーン店が立ち並ぶエリアにいる20代男性。つまり、基本的に男の子の世界だということだ。昔からチャンバラもの、ヤクザもの、ヒーローものと、男性活劇を扱う東映が、『ONE PIECE』のアニメ映画をやったのに象徴される。

 たしかにこの層がドライブしている部分は大きいのだが、テレビ番組「SMAP×SMAP」の「ワンピース王決定戦」を見ても、いまや読者層は大きく広がっている。冒険物語であり、キャラクターはどこまでもストレート。大きな夢があって、巨大な敵がいる。絵や擬音の使い方や、マンガならではの笑い、言葉にも力があり、それらを含めたキャラクターの魅力もある。そして、周到に作り込まれたストーリーに身をゆだねる快感がある。

 アスキー総研のネットとコンテンツに関する1万人調査「MCS 2011」でみると、同じ週刊少年ジャンプ作品でも、コミックの読者構成にはいくつかのパターンがある。『君に届け』が20代女子、『HUNTER×HUNTER』が20代男子、『バクマン。』は男女とも20代が中心の読者だ。ONE PIECEの場合は、男性も多いが女性閲読率も42.2%と高く(少年ジャンプの読者の女性比率がすでに32.5%なのだが)、男女とも10代から30代までを満遍なく読者にしている。


性・年代別コミック閲読率
性・年代別の、コミックの閲読率(2010年4月から11月までに呼んだことがあるかどうか)。女性中心の『君に届け』、男性中心の『HUNTER×HUNTER』とは異なり、『ONE PIECE』は男女ともに広く読まれていることがわかる。

 それでは、「ONE PIECEは何が魅力なのか?」と聞くと、とくに「仲間」とか、「泣ける」という言葉を挙げる人が多い。この物語自体が、「麦わらの一味」という仲間たちの話であり、そこが、海外では「ボーイズアクション」系と呼ばれるような従来の少年ジャンプ作品とは一線を画している。「仲間」というものと「個人」のありかたというあたりに、この作品の秘密があるのではないか。

 折しも、いま世界では「友だち」というものがクローズアップされている。「Facebook」などのソーシャルメディアが、世界中の人たちを見えないネットで覆い包もうとしているからだ。友だちとか仲間とか、何かに燃えることができるか、そして「友情」・「努力」・「勝利」という少年ジャンプが掲げてきたコンセプトが、ネットワーク時代とともにバージョンアップされているとでもいうのか。


リアル化する
「麦わらの一味」

 「ゲーミフィケーション」(Gamification)という言葉があるのをご存じだろうか? ここ1年ほどの間に、少しずつ耳にするようになってきた言葉だが、これの最もシンプルな定義は、「ゲームで培われてきた手法を、非ゲーム系のアプリケーションやサービスに活用する」という意味になる。

 「ゲームの手法を活用するだって?」と、ゲーム産業を盛り上げてきた日本のゲームクリエイターは言うかもしれない。実は、わたしも「ゲーム」で釣って子供に勉強させるようなカラクリだったら興味ないなと思っていた。ところが、これがちょっと違うのだ。ゲーミフィケーションとは何かと聞かれたら、わたしは「TED」(“ideas worth spreading”を掲げて開催される、学術・エンターテインメントなど幅広い分野にわたるカンファレンス)で行われた2つのプレゼンを比較して見るのがよいと答えている。

 セス・プリーバッチという人は「世界を覆うゲームレイヤを作る」というプレゼンで、「ソーシャルメディア」の次にさまざまなサービスを動かすメカニズムになるのが「ゲーミフィケーション」だと主張している。

セス・プリーバッチ
TEDでのセス・プリーバッチのプレゼン。TEDのWebサイト(http://www.ted.com/)で、日本語の字幕付きで公開されている。

 ソーシャルメディアはいま、写真やストリーミングの共有でも、ニュースやビジネス上のコンタクトについても、非常に効果的なしくみとして機能してきている。

 彼の言葉を借りれば、「レイヤー」としてサービス設計の中で機能していくことが重要だという。ちょうど、ソーシャルメディアなら「フォロー」とか「タイムライン」とか「メッセージ」などの機能にあたるものだろう。プリーバッチは、「アポイントメント」(決まった時間に決まった場所に行くといったルール)、「ステータス」(Forsquareのバッチのような、その人がやったことの成果を示すこと)、「共同発見」(文字どおり仲間と一緒に何かを見つけるしくみ)などを挙げている。

 もう1つ、より興味深く思えるのが、ジェーン・マクゴニガルという女性ゲームクリエイターによるプレゼン「ゲームはよりよい世界を作ることができる」だ。人類が次の100年を生き長らえるには、途方もない努力が必要になる。ところが、人々は全世界で、ゲームをプレイするために膨大なエネルギーを費やしている。ゲーム文化の強い国において、平均的な若者は、21歳までにオンライゲームを1万時間もプレイするそうだ。だったら、そのゲームパワーというヤツを使いましょうというものだ。

ジェーン・マクゴニガル
TEDでのジェーン・マクゴニガルのプレゼン。

 なんとなく、ジョークっぽいところもあるのだが、あくまでポジティブかつシリアスに考えている。マクゴニガルの主張は、実装方法に関する議論もさることながら、いかにゲームという魔法が、人々のモチベーションや能力や協調性までをも向上させられるかといったことに力点が置かれていると思う。

 面白いのは、プリーバッチもマクゴニガルも、ゲームの強力さを示す例として「World of Warcraft」というオンラインゲームをあげていることだ。世界中でみんなが作っている百科事典「ウィキペディア」に次ぐ大きさの「ウィキ」(オンライン上の知識を共有する文書形態)は、このゲームに関してのウィキ(WoW Wiki)なのだそうだ。つまり、それだけ大きい“もう1つの世界”が、ゲームの中に事実として存在している。

 World of Warcraftというゲームの中では、プレイヤーは、バーチャルなもう1人の自分として活動する。このゲームの中では、人々はあらゆる労力も時間も惜しまず、活き活きと自分のミッションをこなしている! ちょっとした労働と遊びの理想社会が、そこにあるわけなのだ。

 この種のMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)といわれるゲームの特徴として、ゲーム上で結成して一緒に活動する「ギルド」という集団の存在がある。認め合った仲間と協力して同じ目的のために戦う時間は、さぞ充実していることだろう。『ONE PIECE』という作品のことを考えていたら、どうしてもこの「ギルド」のことを連想してしまったのだ。人々は、大きな目的のために、協力して戦いたいという欲求をいま抱いているのだと思う。

 目の前には大きな問題がいくらでも横たわっているし、世界中では戦争や紛争も絶え間なく起きている。それらに対して、適切な取り組み方をつかめていないからだとも思えるが。

 ゲーミフィケーションを実現する手法には、いろいろなパターンがある。最近のニュースでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)様ウイルスの酵素の構造を解析が、「Foldit」(フォールドイット)というオンラインゲームとそのプレイヤーによって行われた(AFPBB News「ゲーム愛好者らが酵素の構造を解析、米研究」)。長年にわたって科学者たちをなやませ、コンピュータープログラムでは解けなかった問題が、ゲーマーたちによって解かれてしまったのだ。

 2011年10月20~22日に開催される「デジタルコンテンツ・エキスポ 2011」の主催者プログラム「ConTEX」で、このゲーミフィケーションやパーソナル・ファブリケーションに関するシンポジウムが行われる。私は、モデレーターをつとめさせてもらうのだが、チームラボの猪子寿之氏、IAMAS准教授の小林茂氏、慶應義塾大学准教授の田中浩也氏という強力な面々が登壇。詳しくは、『「ソーシャルコンテンツ」大爆発 ~パーソナル・ファブリケーションからゲーミフィケーションまで~』をご覧いただきたい。

カテゴリートップへ

■このコラムについて

 アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

2012年01月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年09月
2011年08月
2011年07月
2011年06月
2011年04月
2011年02月
2010年11月
2010年10月
2010年09月
2010年08月