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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ Act.71

「iPhone 4S」と「Kindle Fire」、どっちがスゴい?

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2011年10月05日 23時10分

iPhone 4S vs. Kindle Fire


 新しいiPhoneが発表されたが、IT業界は、ジョブズ後のアップルがどう動くかのほうを注目している。というのも、ライバルのひとつであるAmazonが、9月下旬にタブレット端末「Kindle Fire」を199ドル(約1万5000円)で発表したからだ。アップルのiPadは、言ってしまえば“ただのタブレット”だが、Kindle FireはAmazonの売り場そのもので、「ベゾスこそビジネスを知っている」という論調も出てきている。

 物理的な画面の滑らかさやタッチの反応の良さを重視するアップルとしては、iPhone 4からiPhone 4Sへの進化は順当なものだろう(わたしは、iOSは「紙」の終焉というモチベーションで動いていると思っている)。それよりも、このiPhone 4SやiPadと、Kindel Fireとを比較することで、いまのデジタルの状況の一端が見えてくると思う。

 iPhone 4Sについては、あちこちで詳しく報じられているので、そちらをご覧になっていただきたい。問題は、Amazonがアップルに突きつけた「Kindle Fire」とはどんな端末なのかということである。

 わたしがいま持っている第2世代のKindleは、モノクロの電子ペーパーを使った地味な端末だ。一応、Webブラウザを搭載していて、ご存知の方は少ないと思うが、日本とメキシコと香港だけは通信料無料でブラウジングできた(少なくともわたしが購入した2009年10月頃には)。しかし、動作スピードの点や、豆粒のようなQWERTYキーボード、またタッチ操作ができないなどの点で、とても使う気になるものではなかった。

 だが、最新モデルのKindle Fireは、映像も音楽も電子書籍もキビキビ楽しめ、一般的なAndroidタブレットと同等のパフォーマンスを発揮する。画面サイズは7インチだから、ちょうどサムスンの「Galaxy Tab」や「HTC Flyer」、「DELL Streak 7」のような端末と考えてよいだろう。

 米メディアが書き立てているのは、AmazonがKindle Fireを赤字で出荷するだろうという憶測である。Kindle Fireをそのようなかたちで提供しても、ユーザーがこれを使ってAmazonで買い物をすることを期待しているという見方だ。アップルが、iTunes Storeで音楽などを売っていても、収益はハードウェアで得ていると言われるのとは対照的である。

Kindle Fireの原価

 米アイサプライによれば、Kindle Fireはパーツと組み立てだけで209.63ドル(約1万6000円)かかるという。あるアナリストは、AmazonはKindle Fireを売るたびに50ドルを失うと指摘している。しかし、これはAmazonが一枚上手で、Kindle Fireを199ドルで売ったとしても利益が出るのではないかとわたしは思う。秋葉原の専門店に行けば、メーカー品と遜色のない静電式のAndroidタブレットが、2万円前後で手に入るからだ。Kindle Fireが売り出される11月には、さらに価格がこなれている可能性が高く、Amazonの調達力を考えれば、リテール価格が199ドルなら原価的にはカバーできる可能性がある。

 いままでのAndroidスマートフォンやAndroidタブレットは、ただiPhone、iPadの対抗馬として、情報端末として発売されてきた。日本メーカーが作るデバイスの多くもその例外ではない。それらとはまるで違う、非常に強力なビジネスモデルを持った異生物とも言えるライバルが、アップルの目の前に降り立ったのだ。

 アップルは、これにどう対峙していくのだろう?


Kindle Fireがヨーカドーなら
iPadはTSUTAYA


 199ドルでバラまくような端末は、さぞかし安っぽいのではないかという意見もあるかもしれない。ほぼ間違いなく、Kindle FireよりもiPadのほうが優れたユーザーインターフェイスを備えているに違いない。Androidも、次第に洗練されて行くだろうが、現時点ではiOSのほうがシンプルでわかりやすいからだ。だが一方で、洗練されたユーザーインターフェイスが必ずしも使いやすいとは限らないと思う。この点において、iPadはKindleの足下にも及んでいないと言っても大げさではない。

 Kindleを使い始めて多くの人が最初に驚くのは、電子書籍がKindleの中に入っていくプロセスだ。普段本を注文しているような調子で、AmazonのWebサイトで電子書籍を買うと、ほとんど気が付かないうちに自分のKindleに書籍が入っている。その仕組みを、同社は「Whispernet」(ひそひそネット)と呼んでいる。ユーザーは、自分のKindleにSIMが入っていることも、通信機能があることすら知らなくていい。

 iPadとKindleの違いは、とても優れた最新式の洗濯機と、電話一本で来てくれるクリーニング店のようなものではないか。

  要するに、Kindle Fireは、ほかのAndroidタブレットのようにマニアックではなく、iPhoneやiPadよりもさらにベタなのだ。実際、Kindleは、本や雑誌、書籍、音楽や映像も扱うが、家具や雑貨にAV機器、ほうれん草やオムツまで扱うイトーヨーカドーのようなものである。一方のiPadは、いまのところコンテンツを売る専門店のように見える。領域としてはTSUTAYAのような感覚である。

 このようなことを考えると、今後アップルは「iOSをハードウェアから独立させるのか?」ということが気になってくる。

 アップルは、iPhoneやiPadとiPod touchというハードウェアの製品ラインに対して、iOSを使っている。しかし、いまや1.5インチのiPod nanoのようなものから駅前の巨大デジタルサイネージまで、世界は画面で溢れている。教育分野に強いアップルとしては、電子黒板や電子教室といったものも無関係ではないはずである。テーブル状のディスプレイや映像機器などに、iOSが使われてもいいだろう。

 iOSをさまざまなデバイスに、自由に入れて使えるようにはしないのだろうか? 本来のソフトウェア的な意味では、iOSはハードウェアから独立しているのだろうが、アップルがそういった使い方をするかどうかである(いまのところ、端末が固定されているところにiPhone、iPadの価値があるとも言えるが)。

 1年ほど前、わたしは「Androidは情報端末で、iPhoneはプレイヤー」なのだと言った(ITmedia記事「AndroidはiPhoneに対抗するべきではない」」=夏野剛氏、神尾寿氏との対談)。しかし、これはあくまでスマートフォンとしてのAndroidの話である。Amazonは見事にメディアマシンとしてKindleを使いつぶすつもりでいる。Androidでは、そうしたことが可能なのだ。

 実は、こうしたAndroidの使い方は、むしろ日本でさかんに言われていたことである。事実、10月4日から幕張で開催されているCEATECでは、そんなふうに日本メーカーがAndroidを使っている例をいくつか見られて楽しかった。わかりやすい例は、東芝のREGZA Tabletである。

 一説には、同社はダブレットに参入するにあたって、ユーザー調査を行ったそうだ。すると、メールやウェブ、アプリ、電子書籍といった、本来のタブレットの使い方に期待するユーザーは、思いのほか少なかった。ところが、居間にあるテレビの映像を自分の部屋やベッドの上で見たいというニーズは、かなり高かったそうなのだ。そのために、同社はHD映像を無線で送れる、タブレットに最適なフォーマットにダウンコンバージョンして送る機能を、レコーダー側に付けた。

東芝片岡さん
CEATECの東芝ブースでは、REGZA Tabletとレコーダーを連携した利用について、片岡秀夫氏自らが説明されていた。

 REGZA Tabletでは、同社がスマートフォン向けに提供してきたリモコンアプリなども使える。これらは、マニアたちをしてかつて「録画神」と呼ばしめた同社の片岡秀夫氏らが作るもので、テレビとソーシャルについて示唆的な内容を含んでいる。結果的に、Kindle FireがAndroidをちゃっかり使ったように、新しい映像視聴体験の道具として東芝はAndroidを利用することになったのだ。

 クラウドコンピューティングの普及にともなって、さまざまなものがネットに繋がりはじめている。Kindle FireやREGZA Tabletという目的指向の端末が登場したのもそうしたことのひとつである。あるいは、電子ガジェットなどを自作するイベント「Make:」が人気となったのも、そうしたことと無関係ではないと思う。

 今回のiPhone 4Sは、基本的にはこれまでのアップルの路線を継承しているように見える。しかし、iOSとAndroidの戦いはいま、次のフェーズに入ったのではないかと感じてしまうのだ。10インチ版のKindle Fire DXも待っているに違いない。ジョブズは、iPad発表時にKindleを高く評価し、「我々はその肩に乗って、より高みを目指す」と言ったのを思い出した。


追伸:
 この原稿を書いているのと前後して、スティーブ・ジョブズ氏の訃報が流れてきた。ジョブズ氏が作り出したデジタルの流れは、ここで書いたように、これからが本番なのではないかと思う。そんな中でのこの知らせを悼むとともに、心よりご冥福をお祈りする。





お知らせ

 2011年10月20~22日、お台場の日本科学未来館でデジタルコンテンツエキスポが開催される。その主催者プログラム「次世代コンテンツ技術(ConTEX)2011」で、シンポジウムの司会をさせていただくことになった。

 《「ソーシャルコンテンツ」大爆発  ~パーソナル・ファブリケーションからゲーミフィケーションまで~》と題して、まさにクラウドコンピューティングによってネットとあらゆるモノが繋がる時代がテーマの1つとなっている。

日時:2011年10月22日(土)13:30~14:50
登壇者:
  株式会社チームラボ 代表取締役社長 猪子寿之
  岐阜県立国際情報科学学術アカデミー准教授 小林茂
  慶應義塾大学SFC准教授/FabLab Japan Founder 田中浩也
  (敬称略)

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■このコラムについて

 アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。

 本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

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