アスキー総合研究所 > 所長コラム > Wikipediaでわかる日本コンテンツの“クールジャパン度”(続)
2011年11月18日 13時49分
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前回、Wikipediaで日本のコンテンツに関して、他言語でページが作られているかどうかを調べているという話を書いた。あるところで、「自社のコンテンツが海外のどこで受けているのか分からない」という相談をされたからだ。わたしは、そのとき「調べるのはたぶん難しくないですよ」と答えたのだった。
日本のコンテンツの海外での普及状況については、JETROが世界各地の状況をレポートしていたことがある。特定地域でのフィールド調査やアンケート調査も可能だろう。しかし、全世界をフラットに眺めるには、このテーマならWebを使わない手はないと思うのだ。
かつては、今回のような話に限らず、なにごとも経験則をノウハウとし、それを理論化して方程式を編み出すことが重要だった。それによって、世の中の全体像を推測することが、すなわちサイエンスでありマーケティングであったと言ってもよい。しかし、いまは世界中の情報のかなりの部分が、ネット上で全件チェック可能である。
GoogleはWeb上で翻訳機能(Google翻訳)を提供しているが、それはネットから集めた膨大な情報をもとにしていると言われる。いままでの翻訳ソフトは、人工知能的な手法に重きが置かれていたが、ひたすら事例を集めて似た文例を引っ張ってきたほうが精度が上がる。検索窓から「Do you give presents * Christmas?」と入力すれば、「at」を入れた例文が見つかるだろう。
今回は、Wikipedia日本語版のアニメやマンガ作品の全項目について、Wikipediaで使われている約300言語のページが作られているか否かを集計した結果をお伝えする。
いくつか注意しなければならないことがあって、1つは、Wikipediaの“日本語版”をもとに作業しているということだ。海外コンテンツで、Wikipediaの日本語版に項目のない作品は拾えていない。もう1つは、アニメやマンガ作品であることを「漫画作品」とか「アニメ映画」といった複数のカテゴリ名から洗い出している点だ。海外作品などで、まれにだが適切なカテゴリになっていないケースも見つかっている。
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| 図1 日本の映画に関しての、Wikipedia他言語ページの開設状況。黒澤作品が上位に入り、アニメやマンガ原作作品が続く。ただし、トップの『七人の侍』でも日本語以外は33言語で、『アバター』の74言語や『ハリー・ポッターと賢者の石』の65言語など、ハリウッド作品には遠く及ばない。 |
図1は、Wikipediaで「日本の映画」というカテゴリに属する項目を、他言語ページの多い順に並べたものだ。1位は『七人の侍』、2位は『羅生門』と、さすがに世界の黒澤明という結果で、『乱』や『生きる』、『影武者』、『隠し砦の三悪人』も上位に入っている。ほかにも、小津安二郎の『東京物語』などが日本映画を代表してきた作品として入ってくる。
しかし、これを見ていると、世界の映画産業の中で「日本の映画」というものがいかに限定的かということを知らされる。『愛のコリーダ』、『戦場のメリークリスマス』、『花より男子』と、なるほど海外で受けたコンテンツが並んでいて、『ノルウェイの森』の村上春樹人気もわかるのだが、むしろ全体としてはポップな作品が世界に浸透していることに注目すべきだろう。『NANA』や『めぞん一刻』、『テニスの王子様』は、いずれもマンガが元になっているか、アニメーション作品である。
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| 図2 アニメ作品に関しての、Wikipedia他言語ページの開設状況。トップの『きつねと猟犬』は、1981年(日本では1983年)公開のディズニーアニメ。以下『ビアンカの大冒険』まで、上位5作品はディズニーが独占している。日本アニメでは、『千と千尋の神隠し』が44言語で20位に入る。 |
図2は、アニメ作品に関連するカテゴリについて、同じように他言語の対応状況を表にしたものだ。これを見ると、アニメはディズニー作品を中心にした米国作品が独占している。日本でそれほど知られない『きつねと猟犬』が、なぜ世界中で興味が持たれているのかなど、このラインナップだけでも興味深いことがいくつかある。
しかし、やはり気になるのは、日本アニメが『千と千尋の神隠し』や『となりのトトロ』ですらようやく30位以内にしか入らないということだ。
日本のアニメは世界的に強いことがよく知られている。フランスでは、IPTVを含めると年に100本以上流れているという。2年半前、ロシアを訪ねたときに、日本大使館の方々に頼まれてラジオに出演したことがある(Культура манга и аниме в России“ロシア文化とアニメとマンガ”)。日本のコンテンツ事情について聞かれたのだが、30代の女性キャスターは、「今朝家を出るときに5歳の娘に“お勧めアニメを聞いてきて”と頼まれた」と言った。
ところが、実際には米国のアニメ映画が圧倒的なのだ。その理由は、総合的な意味でのデリバリー力にあると思う。あるとき、スカパー! の関係者の方と話をしていて、「ハリウッドは何がすごいのですか?」と質問したら、まさに「供給力」だと言っていた。ジャパンエキスポの主催者に「日本のマンガはなぜ人気があるのか?」と聞いた答えも、「供給力」だったのである。
それでは、マンガはどうなのか? 下の図3は、マンガ作品に関係するカテゴリで集計したものだ。これを見ると逆に、米国のDCコミックなどの作品も相当に強いものの、『NARUTO』の70言語にはじまって、日本のマンガがいかに世界に浸透しているかということがわかる。登録されている約1万作品のうちの3分の1程度、約3800本に日本語以外のページがある。
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| 図3 マンガ作品に関しての、Wikipedia他言語ページの開設状況。アメコミも上位に食い込むが、それでもトップの『NARUTO』をはじめとする日本のマンガの強さが際だっている。 |
メディアの垂直統合が叫ばれた時代に書かれた『ハリウッド/巨大メディアの世界戦略』(滝元晋著、日本経済新聞社)は、いま読んでも教えられることの多い本だ。この中で、米国の「エンターテインメント産業」の規模は、個別の作品からテーマパークまで、正確に総額を示すデータはないが、自動車や食品などの巨大産業といわれてきたものを超えていると書かれている。しかも、その輸出比率が高いことが指摘されている。
経済産業省がコンテンツ産業を重視するのは、このような背景を見れば当たり前のことなのだろう。そして、「クールジャパン」というかけ声のもと(その声は、前回書いたようにやや自家中毒的な匂いがするのだが)、アニメやマンガを中心にしたポップカルチャーを推していこうというのも、ここでの集計を見ればうなずけるものだ。
日本のコンテンツの人材に関しては、コミックマーケットのような豊かな地下水脈があり、それらを含めて出版社やアニメ制作会社によって商品化される生態系もある。このデータを見ていてわかるのは、課題は、コンテンツのデリバリーやエクスチェンジの部分だということだ。そして、日本のコンテンツ企業がディズニーやハリウッドのメジャーのような大企業ではないということである。
ところで、この原稿を書いている途中で、Google Musicがベータから正式サービスになったというニュースが流れてきた。そのアナウンスの内容を見ていくと、Android端末が世界で2億台を超えたという数字が出てくる。しかも、1億台を記録したのはわずか6カ月前の今年5月だそうだ。毎日、55万台のAndroidが世界中でアクティベートされている。
メディア環境はいま、ものすごい勢いで変化している。そして、世界はネットによっていろいろなことが見えるようになってきている。それらを見ていないで、いままでと同じ地図と装備で出かけるのでは、登るべき山にたどり着けもしないだろう。
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アスキー総合研究所所長の遠藤 諭が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。
本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。